ツイート |
自分の「知り合いの知り合い」の数は数えられない?
あなたには「知り合いの知り合い」が何人いるか、わかりますか?
「知り合い」の数なら、思い浮かぶ人物を数えればいいので、難しくないでしょう。でも、「知り合いの知り合い」は直接の知り合いではない場合もあるので、数えることもできません。
それを可能にしたのが、本書の著者、矢野和男さんです。それだけではなく、各従業員に「知り合いの知り合い」が多い会社では、開発遅延が減るなど現場での問題解決能力が高く、仕事がうまくいきやすいことを発見しました。
人間関係のネットワークが仕事がうまくいくカギだった!
なぜ、職場に「知り合いの知り合い」が多いと、仕事がうまくいくのでしょう。
仕事には「どこから手をつけていいかもわからない」というものがときどきあります。そんなとき、知り合いに相談しますね。その人がやり方を知っていれば解決しますが、知らなくても、その人の知り合いが答えを知っていそうなら、紹介してくれたりすると、答えを得られる可能性が高まります。つまり「知り合いの知り合い」が多いと、知恵を借りられる確率が高まります。
この効果が実は非常に大きく、とくに大規模ソフトウェア開発などのプロジェクトでは、開発遅延を大きく減らすことができるのです。
しかし、いったい「知り合いの知り合い」を数える方法とはどんなものだったのでしょう。
矢野さんのチームは首にぶら下げる名札型のウエアラブルセンサを開発しました。これは装着者の体の動きを記録すると同時に、センサをつけている人どうしが、どのくらいの時間、話をしていたかも記録することができます。名札には赤外線センサがついていて、接近すると互いのセンサが認識し合うからです。
これを実験に協力してくれた企業の従業員の方にしばらくの間つけてもらい、結果を解析すると、企業内の知り合いのネットワークを下の図のように丸ごと記録することができます。おかげで「知り合いの知り合い」の数をカウントすることも可能となるわけです。
それだけではありません。仕事がさらにうまくいくよう、知り合いの知り合いを増やすにはどうすればいいかもわかります。たとえば、上の図でいえば、「高橋部長」が「喜多さん」と知り合いになれば、部長の知り合いの知り合いは劇的に増えます。このことを応用すると、大規模な組織合併を成功に導く方法も明らかになり、矢野さんのチームの実験では、大きな成果を上げています。
ビッグデータ研究の最先端を行く研究者による初めての著書
本書は、ウエアラブルセンサで得たビッグデータを研究する第一人者が、自ら研究の最前線を語ったもの。上記のほかにも驚くべき成果たくさんでています。その一例を列挙すると…。
- 人がある活動に割り当てられる一日の時間は、熱力学の「熱効率」の式によって制限されていて、それを破ることは決してできない
- 人と人とが再会する確率は、「会わないでいた時間」に反比例する
- 人がある活動をやめて別の活動に遷移する確率は、「その活動の継続時間」に反比例する
- 職場の生産性は会話時の身体活動の活発さに左右される
「いったい何を言っているんだ?」と思うかも知れません。でも、これがどれも本当のことだと大量のデータが示しているのです。私たち人間に関する常識を覆す、科学の最先端が詰まった、面白くないわけがない一冊。読んでおいた方がいいですよ!
(担当/久保田)
株式会社日立製作所中央研究所、主管研究長。1984年早稲田大学物理修士卒。のべ100万日を超えるデータを使った企業業績向上の研究と心理学や人工知能からナノテクまでの専門性の広さと深さで知られる。博士(工学)。東京工業大学大学院連携教授。文科省情報科学技術委員。