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「なぜ見えるのか」から、その歴史や美術まで。あらゆる側面を網羅!
「蜃気楼(しんきろう)」という言葉の語源をご存じでしょうか。この言葉は、最初に司馬遷の『史記』に登場する古い歴史を持った言葉です。
蜃気楼の「蜃」とは、生き物の名前。竜の一種とも、ハマグリのような二枚貝とも言われ、その謎の生き物が妖気を吐いて、楼閣・楼台のような高い建物の幻を生じさせる、というのが「蜃気楼」という言葉のもともとの意味なのです。
江戸時代には「蜃=ハマグリ」説が普及し、ハマグリが妖気を吐いて楼台を生じさせる図が、吉兆を示すおめでたいものとして絵に描かれ、皿やかんざしなどにも図案が使われました。
現代では蜃気楼にも科学の目が向けられ、空気の温度差による光の屈折で、遠くの景色が伸びたり縮んだりして見える現象であることが解明されてきました。とはいえ、実はまだ、蜃気楼にはわからないこと、未発見な真実がたくさんあります。
たとえば、蜃気楼と言えば富山湾が有名で、北海道でも小樽や斜里などでも見られることが知られていましたが、最近になって、日本各地で、これまで蜃気楼が発生することが知られていなかったところでも観測例が次々と報告され、発見ラッシュが起きているのです。琵琶湖や猪苗代湖、大阪湾の蜃気楼は、その新発見により明らかにされたもので、本書でも詳しく紹介しています。
本書は、日本各地の蜃気楼を美しい写真で紹介するだけでなく、蜃気楼の最新の研究成果から、なぜ見えるのか、どこに行けば見えるのか、どんな天気のときに見えるのかと言った観察のガイドまでも網羅。さらには、歴史や美術・骨董の中の蜃気楼までを扱った、世界初の完全ビジュアル・ガイドブックです。
3月〜5月が蜃気楼のハイシーズン! 本書を片手に観測に出かけよう!
蜃気楼は、その背景にある歴史も科学も面白いのですが、とにかく本物の現象を目撃するのがいちばん。大変素晴らしい体験で、誰もが驚くこと間違いありません。
蜃気楼が最もよく見られるのは、多くの地域で3月〜5月頃で、年に数回しか発生しないレアな現象です。晴れて風が穏やかな日に発生しやすいと言われていますが、風向きや、朝昼の寒暖の差も影響すると言われています。天気予報などの情報を利用することで、発生の予測はある程度可能です。本書では、各観測地ごとに、どんな時期のどんな天気のときに発生しやすいかも、観測の実体験に基づいて書かれています。
また、場所も重要です。どこでも見られるわけでなく、蜃気楼が見られる地域でも、観測ポイントは限られます。本書ではその観測ポイントも惜しみなく公開。カメラや双眼鏡をはじめとした、観察に必要な道具についてもアドバイス満載です。
さらに、近くに蜃気楼発生地がない方、とくに関東地方にお住まいの方のために、蜃気楼のメッカである魚津に、日帰りで蜃気楼を見に行くためのガイドも掲載。朝、天気予報図を見て蜃気楼の発生の可能性を確認してから、北陸新幹線を利用して昼まえに到着、観測するというもの。天気図による予測を使うと、成功の確率がグンと上がります。
様々な側面から見ることができ、興味の尽きない蜃気楼。本書をきっかけに、蜃気楼への興味を持っていただき、関連する知識が普及することを期待しています。
(担当/久保田)
全国各地の蜃気楼に関する情報交換、調査研究、教育の普及を図ることを目的に2003年に発足した団体。会員は気象や教育関係者、博物館・科学館に携わる人から、カメラマンや蜃気楼愛好家など、バラエティに富む。毎年、研究発表会等を開催し、会員相互の親睦を図っている。蜃気楼に興味を持った人であれば誰でも入会できる。詳細はウェブサイトを参照。