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よそ者の生物たちがもたらす数々の効用
外来種と聞くと、「周囲の生物を食べつくす危険な存在」というイメージが浮かぶことでしょう。しかし、著名な科学ジャーナリストの著者によれば、実際は、環境になじめず死滅するケースが多いのだとか。おまけに、晴れて環境に定着した生物でも、受粉や種子の伝播を手助けしたり、イタドリやホテイアオイなど、むしろ人間が破壊した生態系を再生したりする役割も果たすというから驚きます。
「外来種は悪い」という一般的なイメージは、どのように作られたのか? 著者は、そんな問題意識から、嫌われ者の外来種たちの“活躍" 例を、世界中から集め、その役割に光をあてます。
人種偏見に基づく民族浄化と外来種排斥は同じ構造
本書の冒頭は、豊かな自然で知られる南大西洋のアセンション島の紹介で始まります。豊かな自然が残ることで知られる島ですが、驚くことに、それは太古からの姿ではなく、過去1世紀の間に、欧米人により世界じゅうからさまざまな動植物が持ち込まれてできた、まったく新しい自然だというのです。
そうした象徴的な事例に続き、著者は、「在来種は善、外来種は悪」という価値観を根づかせてきた「侵入生物学」の各種論文のずさんさや、外来種の繁殖の原因はひとえに人間による環境破壊にあることなどを丁寧な取材から指摘。外来種排斥を人種偏見に基づく民族浄化になぞらえ、それが自然環境保護、自然の再生という目的の達成にはつながらないことを徹底的に解き明かしていきます。
日本の現状については解説で補足
巻末には進化生態学者の岸由二氏による解説も付けました。R・ドーキンス『利己的な遺伝子』共訳者で、「流域思考」を基軸とした都市の自然再生活動に携わってきた同氏によるまとめは、日本の現状を知る上にも必読の内容と言えるでしょう。
「手つかずの自然」が失われている昨今、自然の摂理のもとで外来種が果たす役割を「新しい野生(ニュー・ワイルド)」として評価し、外来種のイメージを根底から覆す、知的興奮にみちたサイエンス・ノンフィクションの登場です。
(担当/三田)
<本書の目次から>
世界中から持ち込まれた動植物/外来種も病原菌も人類の旅のお供/ホテイアオイとナイルパーチが増えた真の理由/ほんとうの原因は人間による環境破壊/長い時間軸でとらえると在来種などいない/ペット出身の外来種たち/かわいらしい外来種は許される?/外来種排斥という陰謀の不都合な真実/民族浄化ならぬ生態系浄化の狂信ぶり/外来種悪玉論からの改宗と周回遅れの環境保護運動/ほとんどの荒れた生態系は回復している/驚くほど都会暮らしを楽しむ野生生物たち/野生生物の天国、チェルノブイリ/管理なき自然を求めて...etc.
ジャーナリスト。環境問題や科学、開発をテーマにと 20年以上、85カ国を取材。1992年から『ニュー・サイエンティスト』誌の環境・開発コンサルタントを務めるほか、『ガーディアン』誌などで執筆、テレビやラジオのコメンテーターとしても活躍する。2011年には長年の貢献に対しAssociation of British Science Writers から表彰を受けた。著書に『水の未来』(日経BP)『地球最後の世代』(NHK 出版)『地球は復讐する』『緑の戦士たち』(いずれも草思社)ほか多数。『地球は復讐する』は23カ国語に翻訳され世界中に大きな影響を与えた。
上智大学外国語学部卒。訳書に『ビジュアル版 人類の歴史大年表』(柊風舎)『<わたし>はどこにあるのか』(紀伊國屋書店)『ビジュアルダ・ヴィンチ全記録』(日経ナショナル ジオグラフィック社)など。