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あの京大吉田寮の「今」を記録する、写真によるドキュメント

京大吉田寮
平林克己:写真 宮西建礼・岡田裕子:文

 吉田寮は、京都大学の学生寄宿舎であり、1913年に建設された日本最古の学生寮です。本書は、その寮の関係者から、寮のことを記録してほしいという依頼を受けた写真家の平林克己さんが撮影した写真をもとに構成されています。さらに、実際に吉田寮に暮らした宮西建礼氏、岡田裕子氏による、寮での暮らしや歴史、自治の在り方等についての解説テキストも記載されています。実際の寮の姿、寮生の生活がどのようなものなのかを記録した、フォトドキュメンタリーとも呼べる本書ですが、書籍の制作にあたり、撮影から使用写真、テキストまで、吉田寮自治会の了解を得ながら進行しました。

 吉田寮はアルファベットの「E」の水平部分を長くしたような平面に、120の和室があり、原則的に相部屋で使われています。第三高等学校学生寄宿舎(竣工1889年)を譲り受けた旧・京都帝国大学寄宿舎の材料を一部再利用しており、部分的には130年もの歴史がある建物で、日本建築学会近畿支部・日本建築史学会も、その資料的な価値を指摘しています。

 寮では、運営に関わることは寮生たち自身で決定し、実行する「学生自治」が行われているのですが、その様子を本文から以下に紹介します。

「吉田寮では、100 年以上も寮生による自治が行われてきた。自分たちに関することは自分たちで決める、ということだ。したがって、毎年二回行われる部屋割りでは、入寮選考委員会が複数人に人数分の面積の居室を提供し、居室の使い方は構成メンバーが話し合って決める。4 人3 部屋なら、1 室は寝室に、1 室は遊び部屋に、1 室は勉強部屋といったふうに。」

 初めは男子寮としてつくられた吉田寮ですが、今ではあらゆるジェンダーの人が入寮できます。もちろん年齢制限も存在せず、なかには59歳で京大に入学し、吉田寮に入ったという寮生もいるとのこと。

 そんな独自の文化を持ち、建築としての歴史的な価値もある吉田寮ですが、2017年に、京都大学は耐震性を理由に、寮から退舎するよう通達を出しました。現在、寮生は大学と立ち退きをめぐり裁判中です。寮の存続が揺れていますが、まずは吉田寮のことを客観的に知ることこそが、求められているのではないでしょうか。

 寮を記録するプロジェクトの代表である岡田さんがあいさつ文に込めた思いが、本書の核心を伝えています。

「様々な情報が溢れ、様々な問題に接する機会が増えています。勿論全ての問題を把握するのは、無理なことだと思います。しかしそこで諦めてしまっては、何も解決しないのではないでしょうか。相手が何を考え、感じ、生活しているかを受け止める姿勢が、多くの問題へのアプローチになるのではと願っています。」

(担当/吉田)

著者紹介

写真:平林克己(ひらばやし・かつみ)
東京生まれ。ウィーンを拠点に東ヨーロッパで写真を始める。外資系商社勤務を経て、写真家として独立。世界8カ国、20都市以上で写真展を開催。「撮った写真に仕事をさせる」ことを第一に掲げ、写真を通じて世界を、そして人をつなぐことを理念としている。作品に、希望をテーマとし、東日本大震災後の東北を撮り続けた『陽』(河出書房)、僧侶たちとともに禅の世界を伝える『禅』、などがある。
文:宮西建礼(みやにし・けんれい)
1989年、大阪府生まれ。吉田寮の元寮生。2013年に「銀河風帆走」で第四回創元SF短編賞を受賞。近作に「もしもぼくらが生まれていたら」(『宙を数える 書き下ろし宇宙SFアンソロジー』(東京創元社)収録)がある。
文:岡田裕子(おかだ・ひろこ)
2006年、京都精華大学芸術学部ストーリーマンガコースを卒業。07年、北海道アイヌ民族と生活を送る。08年、知床ナチュラリスト協会に勤務。16年、鍼灸師/柔道整復師の資格を取得。17年、京都大学人間・環境学研究科入学。
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