話題の本
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生まれながらのランナーが、走ることの本当の意味に気づくまでの物語
人生を走る
――ウルトラトレイル女王の哲学
リジー・ホーカー著 藤村奈緒美 訳
過酷な長距離競技で圧倒的な記録をもつ女性ランナーのメモワール
リジ-・ホーカー氏は、2005年、博士課程終了の記念イベントにと、長距離陸上競技のなかでも特に過酷であるとされる「ウルトラトレイル・デュ・モンブラン(UTMB)」に軽い気持ちで参加したところ、いきなり女性部門で優勝を果たしてしまいます。しかしこれは、のちにこの2005年大会を含めて5回この競技で優勝することになる伝説の幕開けに過ぎませんでした。この生まれながらのランナーは、どのような人生を歩むことで、この前人未到の偉業にたどり着いたのか。本書は、この衝撃的なデビュー戦から、ヒマラヤからカトマンドゥまでを走る挑戦を含む、数々のレースの記録について綴られたものです。
これらの挑戦の詳細な描写から伝わるのは、競技の過酷さと、彼女の強靭な精神と身体ですが、もっとも胸を打つのは、自然の荘厳な美しさや、サポートしてくれる人たちや現地の人々の暖かさといった、「走ることでつながっている世界の素晴らしさ」について触れられる部分です。勝敗を超えた「圧倒的な精神の高み」から競技に挑んでいる著者だからこそ、見ることが出来た視点だと言えるでしょう。
人生に試されて初めて知る「走る意味」
筋肉痛とは無縁だと自負する「鉄人」の彼女にも、疲労骨折という魔の手が忍び寄ります。走ることがすべてである人間から走ることが奪われたとき、彼女は真のランナーとは何かという問いに否応なく向き合うことになります。「走れなくても、走ることと関わることはできる」。このとき、彼女は走ることが自分のためだけではなく、世界と関わる方法そのものであるということに気が付くのです。競技の記録という体裁を軽々と超えて、生きることの真理に触れんとする本書。すべての「走る人」にぜひ読んでいただきたい1冊です。
(担当/吉田)