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立ち読みコーナー
「反日」で生きのびる中国
――江沢民の戦争
鳥居民

「中国人の大多数が抱く日本に対する敵意に、大部分の日本人がほとんど気付いていないことに、私は衝撃を受けている」
……一九九六年六月三日  ニコラス・クリストフ

「万一これが真実だとしたら、日中友好を願うことは不可能ではないか」
……一九九六年七月八日 伊藤光彦


 私は書棚から本を四冊とりだした。いずれも以前に北京に駐在したことのある新聞記者が執筆した中国の現在を記した本である。
 『21世紀中国の読み方』、『読売新聞』の論説委員、高井潔司の著書だ。一九九八年に蒼蒼社から刊行された。
 『北京特派員』は時事通信社の解説委員、信太謙三が書いた。一九九九年、平凡社の出版だ。
 つぎは『中国権力核心』、『毎日新聞』記者の上村幸治が執筆した。二〇〇〇年、文藝春秋社からの発刊である。
 四冊目は『世界を読み解く事典』、『朝日新聞』の編集委員、船橋洋一の本だ。もっとも題名のとおり、この本は中国を主題にはしていない。岩波書店、これも二〇〇〇年の刊行である。
 私がこれらの本から探そうとしたのは、一九九四年に中国共産党が公布した「愛国主義教育実施綱要」についてどのような解説をしているかということ、翌一九九五年六月、七月、八月、そして九月まで中国全土を覆った反日キャンペーンをどのように記しているかということだった。
 船橋洋一は、一九九五年の中国については、その年九月二十二日号の週刊誌に掲載した「北京国連女性会議」を再録してあるだけだった。
 上村幸治の著書には、私が探す問題はつぎの一節があるだけだった。「一九九六年十月の十四期六中全会……の決議は、愛国主義、集団主義、社会主義、民主・法秩序の教育を進めるよう訴えた」
 信太謙三はその終章で、「中国共産党はいま、党の威信低下に対し、愛国主義を高揚し、人々の信頼をつなぎとめようと必死になっている」と綴っていた。
 高井潔司の著書には「友好のオブラートで包まずホンネで交流を」という一節があるのだが、私が探し求める問題には触れていなかった。
 さて、高井、信太、上村、船橋の諸氏は「愛国主義教育実施綱要」は論究する必要などまったくない、それは中共党内のごくごく小さな教育指導指針と思って、そしてその翌年に中国全土でおこなわれた反日キャンペーンはたかだか一過性のものにすぎず、日本と中国の関係になんの影響も与えなかったと考えて、無視したのであろうか。
(「ニコラス・クリストフと伊藤光彦が語ったこと」より)


鳥居民
1929年、東京生まれ、横浜に育つ。日本および中国近現代史研究家。夥しい資料を渉猟し、徹底した調査、考察をもとに独自の史観を展開。著書に、中国の行動原理を解明した古典的名著『毛沢東 五つの戦争』、経済開放への道を予言した『周恩来と毛沢東』、敗戦の年の1年間の動きを重層的に描く『昭和二十年』[第1期全14巻、既刊11巻]、開港から関東大震災までの横浜をテーマとした『横浜山手』『横浜富貴楼 お倉』がある。また、2004年に上梓した『「反日」で生きのびる中国』では、95年から始まった江沢民前国家主席による「愛国主義教育キャンペーン」の狙いを、毛沢東、トウ小平がおこなってきた統治手法に比して考究。反日デモで現実化した恐ろしい事態を正確に予測した。その分析は、日本における対中認識の一つの趨勢をつくった。