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日本という「裏口」を使って大戦へ参戦した
ルーズベルト外交を批判的に検証

本書は第二次世界大戦の終結から間もない1952年に刊行され、大戦における米国の大義をまっこうから否定したことで議論を呼んだ歴史書 “Back Door To War”の全訳です。ヨーロッパで始まっていた大戦への介入に拒絶反応を示す米国世論を「開戦やむなし」に誘導するために、ルーズベルト大統領が利用したのが日本という「裏口(Back Door)」だった、というのが書名の由来です。
著者のチャールズ・カラン・タンシルは当時、ジョージタウン大学で教鞭をとっていた外交史の専門家で、本書では主として米国務省に残されていた一次資料に依拠して戦間期の欧米諸国および日本の熾烈な外交交渉のプロセスを検証しています。
「アメリカの若者を決して戦場に送らない」という公約で大統領選挙を闘い、異例の三選を果たしたルーズベルトは、一方で密かに世界大戦への参戦をもくろみ、枢軸国側にさまざまな揺さぶりをかけました。
アメリカを戦争に引き入れて戦況を好転させたいイギリス、ルーズベルトの挑発をたくみにかわし続けるヒトラー。著者は歴史学の正当な手続きに則って列国が繰り広げた虚実紙一重の駆け引きを検証し、最終的にルーズベルトの仕組んだ「罠」にはまったのが日本だった、という衝撃的な見方を提示するのです。
本書が世に出た1952年、アメリカは泥沼の朝鮮戦争を戦っていました。そういう時期に、直近の戦争におけるアメリカ外交の欺瞞を白日のもとに晒す本を世に出したことで、著者は厳しいバッシングにさらされ、それは著者が1964年に世を去るまで変わりませんでした。
しかし、著者の見方を強力にサポートする証言や資料、刊行物はその後も出続け、その中には31代米国大統領ハーバート・フーバーの『裏切られた自由(原題FREEDOM BETRAYED)』や、共和党の重鎮ハミルトン・フィッシュの『ルーズベルトの開戦責任(原題FDR:The Other Side of Coin)』といった、同時代を生きた米政界の大立者による記録も含まれます。
どのような角度から光を当てるかによって、まったく異なった見え方をするのが歴史というものですが、本書が照射する歴史の断面は日本人の歴史認識にとってきわめて重大な意味を持つにもかかかわらず(あるいはそれゆえに)、これまで実質的に黙殺されてきました。本書が、真摯に歴史に向き合おうとする心ある読者の目に留まることを願ってやみません。
(担当/碇)