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五七五音の定型にどう収めるか。名句を例に楽しく解説。

既刊『音数で引く俳句歳時記』が俳人の間でひそかに愛用されている。1音から25音までの季語を音数ごとにまとめた歳時記は今までなかった。五七五音の定型に収めるために、これがいかに画期的な歳時記かは俳句に親しんだ人なら理解いただけると思う。本書はこの歳時記の姉妹編として書かれた本で、歳時記・徹底活用法ともいえる内容である。
俳句講座第1講は「『定型』感という快感」で、久保田万太郎の秀句、
「ばか、はしら、かき、はまぐりや春の雪」
の引用から始まる。これは貝の名前「ばか貝、貝柱、牡蠣、ハマグリ」を並べて春の宵に飲む酒の肴の感興を詠んだものである。(久保田万太郎は食べ物にまつわる名句が多く、「湯豆腐やいのちのはてのうすあかり」が有名である)。
この冒頭の「貝」の句は五七音に並べるためには、この順序でなければならない。日本語特有の五七音の心地よさ、俳句がなぜ五七五音なのか、というところから本書は始まる。(憲法の条文の文章から説明している。)
俳句を作るとき、五七五音の音律をどう作るか、はみ出したらどう収めるか、季語のバリエーションを心得ていて、音数の調整に季語をどう使うかなどが例句を用いて語られていくのが本書の本筋である。問い答え形式なので大変読みやすい。特筆すべきは、困ったときにどうするかを、代替例をあげて、複数の選択肢から最善の形を探る手順が解説されていることで、読者は著者・岸本尚毅という一流俳人による自作の推敲の手順を見ることになるのが勉強になる。
もう一つは著者の取り上げる例句の面白さ、多彩さである。例えば、「死骸(なきがら)や秋風通う鼻の穴」飯田蛇笏。この句の凄惨さとア音の母音を並べたあっけらかんとした感じが異様な風趣を感じさせる、などの指摘がなされているが、この種の引用が随所に見られる。名句アンソロジーとしても十分に楽しめる内容と言っていいだろう。
本書は、いまもっとも役に立つ俳句実用書であり、また面白い俳句案内になっている。
(担当/木谷)