話題の本
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私たちの生存を支配する7つのファクトとは?数値から見える世界の本当の未来
本書は、徹底した数値思考で、私たちの生存と繁栄を支配する「7つのファクト」を分析し、現実的で建設的な未来を予想する、今こそ必読の1冊です。
◆ビル・ゲイツ氏が信頼を寄せる理由
著者のバーツラフ・シュミル氏はカナダのマニトバ大学特別栄誉教授で、エネルギー、環境変化、人口変動、食料生産などの分野で学際的研究に従事してきた人物です。日本でも『Numbers Don't Lie 世界のリアルは「数字」でつかめ!』ほかの著作で、数値化によるプロとして認知されていますが、実は彼は2008年の時点で、「1968年に[連続したパンデミックどうしの]平均的間隔と最長の間隔を加えると、1996~2021年という範囲になる。確率的に言って、私たちはまさにハイリスク期間に入っている。したがって、今後50年間に次のインフルエンザのパンデミックが起こる可能性は、事実上100パーセントだ」という内容の記事でデータからパンデミックを予想しており、これは見事にコロナの時期と重なっています。このことから、彼の未来予測の鋭さと、現実の未来予測には数値思考が欠かせないことがお分かりいただけるかと思います。ビル・ゲイツ氏は彼の作品を「スターウォーズの新作のように心待ちにする」と評していますが、シュミル氏の著作にはそれだけの理由があるのです。
本作では、7項目のファクトに検討すべき事項を絞ることで、数値思考の入門に最適な構成となっています。第1章から第3章までは、エネルギーと食料と材料の観点から、いかにデジタル化が進んでいる現代文明が物質に依存しているかを説明します。第4章から第7章では、近年のキーワードとなっている「グローバル化」「地球温暖化」「リスク」「シンギュラリティ」といった現象に着目しながら、歴史の流れにおける事実の捉えられ方や対策の講じられ方を分析します。
◆2世紀で利用可能になったエネルギーは何倍か?
数値に基づいて現実を見ると、直観からは理解できないようなスケールの人類文明の進化や、思いがけない事実が浮かび上がります。たとえばエネルギーについてみたとき、みなさんは人類が過去の2世紀で利用可能なエネルギーが何倍になったかご存じでしょうか?正解は、およそ700倍にもなると著者は言います。また、過去30年で、一人当たりのエネルギー必要量は20%増加しています。現在進行している温暖化を、1・5℃以内に収めるには、2020年比でエネルギー利用を52%減少させなければならない計算になるのですが、2030年や2050年という数十年単位の間でそれだけの割合を減らし、かつ大部分を自然由来のエネルギーに置き換えるのは、富裕国でさえエネルギー需要が増加している現状では、そう簡単ではないことが本書から理解できます。
◆危機的状況にある問題ばかりではない
しかし、数値が示すのは現実の厳しい面だけではありません。エマニュエル・マクロン大統領は、アマゾンでの大規模な火災を受けて、2019年8月に自身のXで「私たちの住まいが燃えている。文字どおりの意味で。アマゾンの熱帯雨林―地球の酸素の20パーセントを生み出す肺―が火事になっているのだ。これは国際的な危機だ」と投稿し、即座にG7サミットを開催すべきだとしていましたが、森林火災による酸素の減少は、実際にはどの程度なのでしょうか。本書の計算によれば、地球上の陸上植物には約5000億トン程度の炭素が含まれており、仮にそのすべて、つまり森林や草原や穀物のいっさいが一度に燃えてしまったとしても、そのような大火災で消費される大気中の酸素は、なんと約0.1%にしかならないのです。きちんと計算をすれば、環境問題において、すくなくとも酸素の減少についてはサミットをすぐに開催する必要があるような危機ではないことが分かるのです。
膨大な情報にさらされる日々の中、つい極端な楽観や悲観に基づいた意見に気をとどめてしまうこともありますが、本当の未来は、上記のような徹底的な数値化で得られる知見からしか判断できないものなのです。著者が言うように、「民主的な社会では、考えや提案の優劣を決める議論は、当事者全員が現実の世界にまつわる有意義な情報を多少なりとも共有していないかぎり、道理に適った形では進まない」のです。
本書が、世界がよりよくなるための議論の手助けとなることを願ってやみません。
(担当/吉田)
目次
第1章 エネルギーを理解する――燃料と電気
第2章 食料生産を理解する――化石燃料を食べる
第3章 素材の世界を理解する――現代文明の四本柱
第4章 グローバル化を理解する――エンジン、マイクロチップ、そしてその先にあるもの
第5章 リスクを理解する――ウイルスから食生活、さらには太陽フレアまで
第6章 環境を理解する――かけがえのない生物圏
第7章 未来を理解する この世の終わり(アポカリプス)と特異点(シンギュラリティ)のはざまで