草思社

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知的で奇妙な海の住人の驚くべき内面と生態に迫る

タコの精神生活
――知られざる心と生態
デイヴィッド・シール 著 木高恵子 訳
タコの精神生活

本書は、タコ研究の第一人者が、自身の研究に基づいてタコの魅力と不思議さを余すところなく伝える、タコ学の最前線と言える1冊です。著者のデイヴィッド・シールは、タコが眠っている間に夢を見ている可能性がある様子を記録したことで、一躍有名になりました。(以下がその様子を収めた動画です。引用:Nature on PBS「Octopus Dreaming」https://www.youtube.com/watch?v=0vKCLJZbytU&t=2s

タコは驚くほど感情豊かな行動を見せます。著者の研究室で飼われていたおとなしいタコが、別の水槽に居た大きなタコがいなくなり代わりに自分より小さなタコが来たことで、大胆な性格になったといいます。また、個別の人間も認識しているようで、ある人には水を吹きかけることもあれば、別の人では姿を見るやいなや、早く会いたいといわんばかりに急いで寄ってくる場合もあります。さらには、本来は単独で行動し、共食いもあるタコですが、なんとオーストラリアのある場所で、集団で暮らすタコの街「オクトポリス」が発見されています。そこでは、世話焼きのオスのタコが、見張り役のようにして「住人」に声をかけたり、部外者の進入を警戒していたりするというのです。

また、アラスカの先住民へのフィールドワークでは、タコに関する説話や語源に関する興味深い歴史も判明しています。たとえば、アラスカのいくつかの先住民族のタコを指す言葉は、「皮膚」にまつわるものが多いそうです。著者もタコの同定のために皮膚をよく観察し、その魅力に惹かれていますが、言葉の中にもその感覚が生きていることが発見されるとは驚きです。

その他にも、メスの方が物を投げるのが得意だったり、どうやら視覚と触覚の意思疎通が思いのほか親密ではないようであったりと、タコにはまだまだ私たちの知らない生態が隠されているようです。新しい発見が盛りだくさんの本書は、タコ、そして動物の最前線を知りたい方に強くオススメです。

(担当/吉田)

著者紹介

デイヴィッド・シール(David Scheel)
アラスカ・パシフィック大学教授。アラスカ州アンカレッジ在住。海洋生物学、水族館飼育学、動物行動学などを専門とする。 25年以上にわたり、タコの行動と生態を研究している。米公共放送サービス(PBS)による『Octopus: Making Contact.(タコ:コンタクト)』に出演。

訳者紹介

木高恵子(きだか・けいこ)
淡路島生まれ、淡路島在住のフリーの翻訳家。短大卒業後、子ども英語講師として勤務。さまざまな職種を経て翻訳学校インタースクール大阪に通学し、英日翻訳コースを修了。訳書に『ビーバー 世界を救う可愛いすぎる生物』、『人間がいなくなった後の自然』(草思社)がある。
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