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奇跡の財政再建をなしとげるも、西郷、大久保ら維新の元勲から「悪人」と憎まれた男の実像
維新の大業をなした薩摩の「起点」となった人物に光を当てる傑作評伝!
本書の旧版(1966年中央公論社刊。現在絶版)は調所(ずしょ)笑左衛門広郷(ひろさと)の初めての伝記で、巷間の調所像を覆す衝撃的なものでした。
江戸後期、薩摩藩は莫大な負債を抱え瓦解寸前でしたが、そこに起死回生の大手術を行ったのが薩摩藩家老・調所笑左衛門です。
調所の財政改革を経て薩摩は洋式工業の中心、日本随一の富強国となり、のちに西郷らあまたの元勲を輩出しましたが、元勲らは調所を「極罪ノ者」としてその業績を抹殺し、その後調所のイメージは「悪人」として定着していきます。
しかし、調所の尽力なくして薩摩が維新の推進役となることはなかったのです。ペリー提督が開国を要求した嘉永6年(1853年)、島津斉彬が「薩摩藩は軍艦15艘くらい用意できます」と水戸斉昭に豪語した書状を送っていますが、その財力を生んだ功労者は調所でした。
本書は、調所の子孫や縁故の人たちからの聞き書きや史料調査を尽くしてものし、幕末薩摩の力の源泉に迫った傑作です。多くの歴史ファンにお読みいただければ幸いです。
(担当/貞島)
目次
まえがき
第一章 調所家の来歴と薩摩藩
1 調所家の来歴と笑左衛門
調所反対派による調所関係資料の燃毀
笑左衛門の遺品
調所家の来歴と家系
2 島津七十七万石の家臣団
薩摩藩家臣団の構成
薩摩藩の郷士制度
郷士年寄たちによる藩政改革と、維新戦争
経済にうとい城下武士らと、調所一派の対立
重豪の意をうけた調所による大改革
3 兵児気質と笑左衛門の素顔
薩摩武士の勇武と偏狭
郷中制度と“ヒエモントリ”という競技
笑左衛門の青少年時代
第二章 重豪と斉宣の時代
1 重豪登場で一変した薩摩の士風
英邁進取な「蘭癖」藩主、重豪
重豪による数々の施策と傾く藩財政
驚天動地の“風俗矯正”
2 「近思録派」による復古政策
重豪の子、斉宣を支えた近思録派の英俊たち
近思録派の思想と政策
3 重豪の巻き返し
重豪による近思録派の罷免
将軍夫人という権威
第三章 財政を立て直した蛮勇
1 調所笑左衛門の登場
江戸詰での御茶道生活
昇進に次ぐ昇進
改革の大任を命じられる
2 薩摩藩財政の行き詰まり
薩摩藩の財政状況
薩摩藩疲弊の背景
笑左衛門の心根の深さ
3 大坂町人を味方に
大坂の銀主たちと重豪
「お由羅騒動記」に見る資金調達異聞
重豪・斉興が調所に下した大命
大坂町人・浜村孫兵衛への厚い信任
4 五百万両を踏み倒す
二百五十ヵ年賦の無利子償還という暴令
薩摩の財政復興に尽くした斉興
斉興と調所の偽金造り
第四章 物産・流通改革と黒糖収奪
1 調所流・合理的節約財政
薩摩藩の財務組織
冗費削減と橋・河川等の整備
南西諸島と大坂間の海運大改正
2 さまざまな物産開発と流通改革
国産品開発への情熱
専売制強化による百姓の離散
さまざまな国産品の流通合理化
櫨の強制耕作
琉球鬱金と朱粉の密売対策
3 黒糖植民地、奄美三島
江戸中期ごろまでの黒糖専売
黒糖収奪の強化と斉宣の仁政
豪農優遇策と百姓の奴隷化
4 黒糖専売における徹底した増収策
銀主への朱印書と三島方の設置
莫大な純益と糖価維持への腐心
第五章 調所改革への不満
1 農政の乱れを正す
農村の疲弊と「上見部下(じょうけんぶさが)り」という宿弊
上見部下り廃止をめぐる調所の苦心
「定免制」復活の大号令
調所農政の限界
2 思うにまかせぬ軍制改革
給地高の有名無実を正す
琉球警備の強化と洋式軍制への転換
第六章 斉彬と調所の対立
1 調所をめぐる虚実
改革への鬱憤爆発
調所の腹心たちの悪評
日夜執務に没頭し続けた調所
反調所派によるあら探し
2 黒い噂の中での最期
斉興の側室・お由羅の評判
斉彬の襲封と調所退治の謀議
調所の死と遺族への追罰
3 お由羅騒動の怨み
家督相続問題とお由羅騒動
憎しみの中での抹殺
復刊に寄せて 調所広郷研究の深化のために 原口泉
参考文献
薩摩藩関係略年表(天保の改革を中心に)