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この理不尽な生をいかに生きるか
紀伊國屋じんぶん大賞第一回大賞受賞作『切りとれ、あの祈る手を』の著者、佐々木中による待望の書き下ろし作品です。
哲学入門と題される本書は、これまで数多く書かれてきたいわゆる哲学入門書とは趣を異にします。ギリシャ時代から時代を追って哲学史が解説されるわけではありませんし、哲学用語の説明があるわけでもありません。
そもそも私たちは哲学に何を求めているのか。憂いや悩みなく毎日を過ごしていくことができれば、哲学に興味を持つことはないでしょう。行き詰まりを感じたり、先行きに不安を抱いたりして、うまく時間が経っていかないような状況に陥った時に、はじめて私たちは真に哲学を希求するのではないでしょうか。
著者は、「哲学とは死を学ぶこと」だとして、死について徹底的に考察します。あなたは死ぬ。そして私も死ぬ。人間は生まれてくることを選べないのに、生まれてきた以上は死ななければならない。なんと理不尽なことか。そしてこの理不尽な生をいかに生きればいいのか――。
この根源的な問いに対して、まるで高僧の説教のように嚙んで含めて説き、時にこちらを煽動するかのように畳み掛けてくる文体は、まさに著者の真骨頂です。
終盤、チェーホフの『ワーニャ伯父さん』を引用しながら議論は深められ、真理が語られます。そして跋文であっと驚くような「燈火(ともしび)」が瞬きます。実にスリリングな啓発書である本書を是非ご高覧ください。
(担当/渡邉)
内容紹介
『切りとれ、あの祈る手を』の著者、
待望の書き下ろし作品!
本当に読みたかった哲学入門、誕生。
最初で、最後で、最短の一冊。
「みんな」の欲望と、あなたの欲望。「みんな」の不安と、あなたの不安。
そこから、哲学は「普遍」へとあなたを導きます。
あなたを超えたものへ。
【「序」より】
――そもそも、私にはあなたが誰なのかも全く知ることができない。
一応、この本は「哲学入門」と題されているわけですから、何かしら哲学ということに興味がおありなのかなとは思います。しかし――、「哲学」という日本語はフィロソフィ(philosophy)を西周が翻訳したものであって、当初は「希哲学」と訳されていたとか、そもそも哲学とは「知を愛する」ことであってその動詞の用法はヘロドトスの『歴史』に出てくる小アジアのリュディアの首都サルディスを訪問したギリシャの賢人ソロンに対して国王クロイソスが述べた言葉が初出であるとされているとか、形容詞の用法はそれより古くヘラクレイトスが述べているとか、あなたはそういうことが聞きたいのではないのではないか。
哲学入門を書くことになり、私も「哲学入門」と題する本を何十冊か読んでみました。すると、それらが大体二つのパターンに収まることがわかった。つまり、一つは「コンパクトな哲学史」とでも呼ぶべきもので、もう一つは「問題集」と呼ぶべきものです。
「コンパクトな哲学史」の方は、その名の通り圧縮された哲学の歴史の叙述です。古典ギリシャ時代から始まりカントからヘーゲル、ハイデガーへと哲学が経巡って来た歴史を短く辿り直して見せるものである。これはいわゆる大陸哲学系の著者に多いようです。
もう一つの「問題集」の方は、「心身問題」や、「自由意志の問題」、「神の論証の問題」などの伝統的な哲学的問題を列挙し、著者が自分なりの回答を与えて見せるものです。これはいわゆる英米哲学系の著者に多く見られます。
もちろん、そうした本を読んで勉強にならないわけではないでしょう。しかし、繰り返します。あなたはそういうことが聞きたいのではないのではないか。――この本は、そんなあなたのために書かれた本です。
とはいえ、繰り返します。私はあなたのことを何も知らない。ですが、一つあなたのことを当てて見せましょう。どんなにあなたが隠そうとしても、あなたのことを一つだけ確実に当てられる。そのことを私は知っています。
それは、あなたが死ぬということです。
さて、私たちの哲学入門は、ここから始まります。
目次
序
生まれてくることを選べない
「とりあえず」と「たまたま」
哲学とは死を学ぶこと
複製の生、劣化コピーの欲望
「自分自身の死」
「死の搾取」
死と宗教
不確実な私の死
葬礼、文化の起源
儀礼の問題
「根拠律」と儀礼
「救済」と「記憶」の問題
跋