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セクハラ、DV、マッチングアプリの詐称の起源を、進化から読み解く

有害な男性のふるまい
――進化で読み解くハラスメントの起源
デヴィッド・M・バス 著 加藤智子 訳

職場でのセクハラ、マッチングアプリでの出会いにおけるウソのプロフィール。あるいは、恋人に対する暴力、破局後のストーカー行為、DVから、ごく普通の夫婦間の不幸まで。このような、わたしたち全員にとって避けて通れないさまざまな男女の間の衝突=「性的対立」はなぜ起こるのでしょうか。その根底を、人類の生物としての進化にあるのではないかと考え、「進化心理学」の視点からそのルーツを明らかにしようとするのが本書です。このような性的対立は、進化の結果できた根源的な性心理の男女差に原因があり、それを解明することが、男女間の調和につながると考えられるのです。

この性心理の差において重要なのは、妊娠に関するコストの違いです。男性は単に性行為を行うだけで子どもを作ることができる一方、女性は子どもを産むために多大な犠牲を伴う長い妊娠期間を必要とします。繁殖における男女間のこのような違いが、性心理の差を生むのです。この心理的性差は、性的衝動や、性的バラエティーへの欲求(多くの異なる相手とのセックスを求める欲求)といった、配偶に関するさまざまな傾向に表れたり、性的対象に感じる魅力や情熱、興奮、嫌悪、嫉妬、愛といった感情にも表れます。また、性的妄想をいだいたり、相手が自分に性的な興味を持っているかどうかを判断しようとしたりする際の思考にも表れます。

ひとつ現代的な例をみてみましょう。マッチングアプリにおける男性と女性の、「魅力的に感じる割合」を調べると、男性の場合は正規分布に近いベル型分布であったのに対し、女性は平均的な男性を「基準以下」とみなし、主に上位20%の男性しか魅力を感じていないことが研究で判明しています。このことは、先の妊娠のコストなどから、女性はより正確に男性を見極める必要があることと関係しています。その結果、男女におけるマッチング市場でのギャップが生じ、それがプロフィールの詐称につながっています。ある研究では、マッチングアプリのプロフィールのうち実に81%に、1項目以上のウソがふくまれていたといいます。

これまで、男女の対立は社会科学や家父長制の研究といったものの上に議論されることが多かったと思いますが、そこに新たに進化的点を加えることで、より「男女の調和への道」が近づくことが考えられます。例えば、性的暴行が多く発生しやすい、あるいは発生しにくい社会的状況とはどのようなものかを特定しやすくなったり、あるいは「ダーク・トライアド」の特性を持つ、有害な性心理が強い男性の特定のタイプを見分けるうえでも役に立つといえます。

客観的に把握することが難しい男性と女性の性心理の違いを知るうえで、この本は多くの有益な情報をもたらしてくれます。本書が、男女がお互いをより深く理解し、性的対立を解決する助けになることを願ってやみません。

(担当/吉田)

目次

第1章 男対女の戦い
第2章 配偶市場
第3章 恋愛・結婚生活の悩み
第4章 恋愛・結婚関係の対立に対処する
第5章 パートナーによる暴力
第6章 破局後のストーカー行為と復讐
第7章 性的強要
第8章 性的強要から身を守る
第9章 男女のギャップに目を向ける

著者紹介

デヴィッド・M・バス
心理学者。進化心理学の第一人者で、配偶者選択に関連したヒトの性差の進化心理学的研究でよく知られている。著作に、『女と男のだましあい:ヒトの性行動の進化』(草思社)、『「殺してやる」:止められない本能』(柏書房)、『一度なら許してしまう女一度でも許せない男:嫉妬と性行動の進化論』(PHP研究所)などがある。

訳者紹介

加藤智子(かとう・ともこ)
翻訳者。筑波大学第二学群比較文化学類卒。英国イースト・アングリア大学文芸翻訳修士課程、米国ミドルベリー国際大学院モントレー校翻訳・通訳修士課程を修了。訳書に『なぜ心はこんなに脆いのか』(草思社)、『ジョン・レノン 最後の3日間』(祥伝社)、『困った上司・やっかいな同僚:職場のストレスに負けない人の考え方』(二見書房)、『アメリカン・ハードコア』(メディア総合研究所 )など。
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