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中国の強硬な主張の底に潜む危うさ。
「5000年にわたる歴史をもつひとつの国、ひとつの民族」という虚構。
その虚構を根拠にしつつ、中国はこれからどこへ向かおうとしているのか。
習近平は言う。「五〇〇〇年以上にわたる歴史のなかで、わが国は優れた文明を作りあげ、人類に卓越した貢献をし、世界における偉大な国家の一つとなった」。だが、実際には「中国」とは近代になって強引に創り上げられたものにすぎない。「中華民族の均一性も、中国の国境線も、さらには国民国家という概念さえも、すべて一九世紀後半から二〇世紀前半に捏造されたものなのだ」(序章)中国が五〇〇〇年間ずっと統一国家であり統一国民であったという神話の虚構性を、「中国(チャイナ)」という国名と概念の導入から、歴史、民族、言語、領土、領海など広範にわたって詳細な資料をもとに検証する。
(担当/藤田)
◎本書内容より
「中国」(ヂォングゥオ=チャイナ)――国名がなかった国。近代西洋諸国の圧力に直面するなかで近代化する日本を見て国名を創り出す。
「漢族」――白人種に対抗する黄色人種としての「漢族」と「満州族」だが、満州人を切り離し漢人だけを特別な「漢族」とする。
「中国史」――「五〇〇〇年」にわたって「一つの国民」として優れた文明を築いたとする。
「中華民族」――多民族を同化し「中華民族」という一つの「中国国民」と創り上げる。
「中国語」――多様な言語を排して統一された国家言語を創り上げる。
「領土」――「国境」などなかったが、近代西洋に対抗するため地理学者らによって「領土」が創出される。同時に中国全体が領土に対する過度の不安を発症する。
「領海」――南シナ海等の紛争の根源。想像力を駆使して空想の産物たる「地図」が創り上げられる。
◎目次より
序章 「五〇〇〇年にわたる歴史」
「百年国恥」を忘れるな/中華人民共和国の正統性/故意に構築された「中国(チャイナ)」
第1章 「中国」の捏造――国名のなかった国
「チャイナ(中国)」は西洋人が作りだした概念/中国(ヂォングゥオ)は国名ではなく特定の文化を持つ場所/チャイナの起源/イエズス会修道士が果たした役割/自国の正式名称がない/満州人を排除する革命/〈中華〉を復活させる/「中華」思想が政策の基本原理
第2章 「主権」の捏造
世界秩序の再構築をめざす中国/朝貢儀式によって「天下(万国)」の支配者たることを示す/アヘン戦争の勃発/太平天国の乱と第二次アヘン戦争/西洋の技術を学ぶ「自強運動」/西洋の「主権」の概念と中国語の「主権」の違い/近代化を促進する日本と伝統的な世界観を固持する清国/清国と朝鮮の朝貢関係の終焉/日清戦争の敗北によって清朝の世界秩序は終わりを告げる/現代中国の「主権原理主義」とは何か
第3章 「漢民族」の捏造
華僑を利用する中国共産党/臣民を民族で分類/黄遵憲の「黄色人種」という考え方/白色人種に対抗する黄色人種/漢族が「黄帝子孫」という捏造
第4章 「中国史」の捏造
中国五〇〇〇年の歴史という物語/近代化を教え導くイギリス人宣教師/改革派のジャーナリスト、梁啓超の歴史観/新しい国民を誕生させ新たな国民国家を創出する/新しい歴史教科書『最新中学教科書 中国歴史』/二〇〇〇年間一貫して存続していた「中国民族」という虚妄/ナショナリズムの幻影、「現代中国」版の歴史解釈
第5章 「中華民族」の捏造
習仲勲と習近平の政策/改革派・梁と革命派・孫の共生関係/漢民族が他民族を同化する/清王朝の滅亡と「五族共和」/民族を融合し、一つの〈中華民族〉を形成するという孫文の夢/新疆ウイグル自治区の「再教育」訓練所
第6章 「中国語」の捏造
香港・広州での地方文化撲滅への抗議活動/北京語のネイティブは広東語を理解できない/「言文合一」の試み/国民を統一させるための言語改革/統一言語(国語)の創出をめぐる二人のワン、王照と汪栄宝の闘い/北京方言を標準とした新たな「国語」の誕生/一つの国家には一つの国民と一つの言語
第7章 「領土」の捏造
清帝国は国境線を画定したことがない/放棄された台湾/国家防衛の鍵となる地理学/領土ノイローゼを発症させた「国恥地図」/ナショナリズムを推進するための歴史・地理学教育/国民党の最後の砦となった台湾/亡国の恐怖と「国恥意識」
第8章 「領海」の捏造
南シナ海問題の悲劇/領有権主張の根拠となった三日間の調査/革命派に広州を明け渡した李準提督/中国の間違った翻訳が戦争危機を引き起こす/想像の産物だった南シナ海の地図/中国の想像上の境界線が領有権を主張する/南シナ海の紛争当事国には領有権を主張する根拠がない
結論 「中国の夢」
歴史における中国の国際的地位の回復/中国特有の民族社会主義の構築/ナショナリストの想像力によって捏造された神話