草思社

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その土地のことは、窓を見ればわかる。アジアの窓の旅行譚

アジア「窓」紀行
――上海からエルサレムまで
田熊隆樹 著・写真

窓は、室内を快適にするために外気や光を遮り、外と隔てるものでもあれば、逆に風を取り入れたり、外の景色を眺めたりと、外とつなげるものでもあります。また、地域特有の文化に基づいた豪奢な装飾が施されることもしばしばです。言うなれば、窓は環境的な風土と文化がもっともよく表れた部位であり、「窓を見ればその土地のことが分かる」といっても過言ではありません。そんな窓を見つめて、アジアを端から端まで旅したのが本書です。

上海の窓から生える謎の棒、鉢状の地形に密集した宗教都市の窓が圧巻のラルンガル・ゴンパ、シェムリ・アップの戸と庇を兼ねた窓ほか、日本あるいは西洋などの地域では見られないような魅惑的な窓が、写真のみならず建築家である著者によるスケッチや図面とともに語られます。どういった理屈でそれらの空間がつくられているのか、そのうえでどう窓を設けているのかをわかりやすく伝えています。

例に、中国の河南省にある張村を見てみましょう。この地域にあるヤオトンという地面に穴を掘ってできた住居形式は、かの習近平が暮らしていたものとしても有名です。もはや「建てる」という言葉を使うのがためらわれる住居は、無限に掘ればどこまでも広くできそうですが、入口と窓しか開口がなく奥に行くほど湿気がひどいため、「新聞紙貼り仕上げ」によって湿度の緩和が図られるなど、生活に根付いたユニークな知恵を垣間見ることができます。また、掘るのは非常に大変な労働であるために、窓を減らす工夫として、入口を2部屋で共有する場合があるのです。そのため、隅の部分では、イスラム風のアーチを用いた開口でありながらきれいなアーチになっていない場合があるのです。これはまさに、文化的な意匠と、機能がぶつかり合った細部としての窓なのです。

著者が「窓からのぞいたアジアは、たしかにひとつではないが、そんなにバラバラでもない」というように、多様な地域性とともに、人間のもっとも根源的な欲求に応えるという点で普遍性も同時に兼ね備える、奥深い装置が窓なのです。本書を読んでぜひ世界の窓を観察しに行っていただきたいところですが、コロナが終息せずかつてのような自由な旅はできない中でも、身近な窓から生活と文化、環境の関わり方を読みとる視点を持っていただけたら幸いです。

(担当/吉田)

著者紹介

田熊隆樹(たぐま・りゅうき)
1992年東京生まれ。早稲田大学大学院建築学専攻修了。大学院休学中にアジア・中東11カ国の建築・集落・民家を巡って旅する。2017年より台湾・宜蘭(イーラン)のFieldoffice Architectsにて美術館、公園、駐車場、バスターミナルなど大小の公共空間を設計している。ユニオン造形文化財団在外研修生、文化庁新進芸術家海外研修制度研修生。
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