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「謎ルール」に蝕まれる学校
「暗黙のルールを守らせることで良い子になる」という神話
かつてアルバート・アインシュタインは、教育とは「学校で学んだことをすべて忘れてしまった後に、個人の中に残っているもの」だと定義しました。何を学んだかではなく、社会の問題を解決するために独自に考え、行動できる人間になれたかどうかこそが大切なのだと、この偉大な科学者は語っているのです。
ひるがえって日本の学校に目をやると、そこには旧態依然とした「しきたり」にしばられたコミュニティがあり、自分で考えるよりもまず「場の空気」に従うことを強いる価値観があります。学校がこういう場所であるかぎり、自分で考え時代の変化に対応していく子どもたちを社会に送り出すことなどできないのではないか――。本書はそんな問題意識を持つ現役教師が、自身の経験をまじえて綴った本です。
時代に合わない校則についてはしばしばニュースでも報じられますが、実際には明文化されたルールは学校の決まりのごく一部に過ぎず、不文律として存在する決まりごとこそが問題だと著者は指摘しています。たとえば日本の小学校のアイコンともいえるランドセルも通常はその使用を校則で定められてはいません。学校に持ってきていいもの・いけないものの線引きや、他クラスへの出入り禁止、身長順の整列、運動会への異常な執着……など、校則として明文化されることなく「しきたり」として遵守されている謎ルールが学校には長きにわたって存在しているのです。
それぞれのトピックスについては是非、本書をお読みいただきたいのですが、そこに通底するのは「暗黙のルールを守らせることで、子どもたちは(無害な)良い子になるのだ」という思想です。日本の組織の宿痾ともいえる前例踏襲主義や事なかれ主義は、じつは義務教育の段階で私たちの価値観の最深部に埋め込まれているのかもしれません。著者のようにムラ社会の論理と戦おうとする教師もゼロではありませんが、現在の教職員はあまりにも多忙で矢面に立ってルールを変える余力は残っていそうにありません。それでも未来のこの国を担う子どもたちのために、教師は勇気をもって学校を変えようと、著者は本書の最後で訴えています。日本の教育をめぐる議論に新たな一石を投じる一冊といえるかもしれません。
(担当/碇)
目次
はじめに――学校はなぜ変化に対応できないのか
第1章 校則より多い不文律
どんなに暑くても腕まくりは禁止
不文律としてのランドセルとスクール水着
説得力のない強引な線引き
「例年どおりで」という思考停止フレーズ
敵視されるキャラクター文房具
正門前の店でのみ買い食い許可
「余計なことをしないようにね」
冬でも半袖・短パンという不条理
学校の責任を問われないかぎり……
学区外へのお出かけ禁止の謎
第2章 思考停止のためのシステム
根強く残る子どもへの不信感
なぜ子どもに名札が必要なのか
規則がないと学校は荒れるのか
「いざというとき、誰が責任をとるのですか」
髪型の乱れは心の乱れ?
あっさり撤廃された「ツーブロック禁止」
教育委員会のおせっかい
思考停止から脱却するためには
第3章 変化することへの恐怖
「次は自分のクラスの番では……」
なぜ他クラスへの出入りは禁止されるのか
クラスへの出入りを自由にした結果
学級ムラが阻害する子どもの自立
「派手=学校が荒れる」という固定観念
「堂々と違っていなさい」
教員にも求められる地味さ
茶髪一人で学校は大騒ぎ
第4章 前例踏襲主義の呪縛
「朝の会」も「帰りの会」もずっと同じ
移動の際はかならず整列!
外見を重視する歪な価値観
身長の順にしか並べません
「朝から歌なんか歌いたくない」
歌えばクラスの輪が生まれるという幻想
「いいとこ見つけ」は必要なのか
「一〇年後の彼ら」のために
第5章 学校行事に時間をかける理由
学校にはびこるおかしな価値観
ショー化する卒業式
卒業式の練習が何の役に立つのだろうか
「こういうのがあるから、六年生の担任はいいんだよね」
ムラの一大行事としての運動会
つぶされる授業時間
盛り上がる職員室
哀しき合唱コンクール
できない子どもには個人練習
「いいクラス」である必要などない
第6章 なぜ序列化したがるのか
変わらない通知表
変わらない教員の意識
いまだに残る平均点
いまだに残る選抜リレー
第7章 出でよ、異端教員
誰もが誰かに監視されている社会
授業のやり方まで「みんなと同じ」
名前を忘れられる教員たち
教員は挑戦し、失敗し、立ち上がる姿を見せよう
校長・教育委員会の事なかれ主義
判断を丸投げすることの危険性
名物教師が絶滅した理由
なぜオシャレな教員がいないのか
沈黙の職員会議
それでも教員は「出すぎた杭」になれ
終わりに