草思社

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記事・論説から広告まで膨大な新聞資料を渉猟し、反日言説の背景をさぐる貴重な論考!

韓国の「反日歴史認識」はどのように生まれたか
――終戦から朝鮮戦争までの南朝鮮・韓国紙から読みとく
荒木信子 著

 なぜ韓国人は日本の過去を繰り返し責めたてるのか――。著者の問題意識はここからスタートしています。「昔、日本が悪いことをしたから」というのが一般的な認識かもしれませんが、彼らが持っている「歴史認識」には多くの事実誤認があることも事実です。では、その「歴史認識」はいつ、どのようにはじまったのでしょうか。著者は、それを探るべく日本統治が終わった直後の現地紙を読みはじめました。そして、膨大な労力と時間を費やして完成させたのが本書です。

 資料として使われているのは国立国会図書館(関西館)に所蔵されている当時の南朝鮮・韓国の新聞22紙です。著者は終戦直後の1945年8月15日から朝鮮戦争が勃発した1950年6月25日までの期間の新聞の全ページに目を通し、記事だけでなく広告まで含めて入念に分析・考察を加えています。

 新聞には誤報や偏った論説もあるわけですが、その時点で何がどのように語られているか、それはどのような価値観・視点に基づくのか、それが事実や現実とかけ離れているなら、どのようにかけ離れているか――といったことを理解するうえで新聞は格好の資料になるのだと著者は述べています。紙面で何が話題になり、どのように認識されているか、個別具体的に考察することで解像度の高い日本への感情(日本観)を得ることが可能になりますし、一方でテーマごとにさまざまな記事を見ていくことで、時代の全体像も浮かび上がってくるのです。

 本書が扱う1945~1950年という期間は、これまであまり焦点が当てられなかった時期でもあります。新しい国家体制や国際関係が形作られていったこの時期の対日観・歴史観をつぶさに考察したうえで、著者は「日本統治時代の歴史は両者が共有するものではあるが、見解を一致させることは不可能」であり、それは致し方ないことだと結論づけています。必要なのは「日本の立場から研究を重ねて、日本統治時代への見方を確立させること」なのです。本書が現在のゆがんだ日韓関係を今一度スタート地点に立ち返って考え直すきっかけになれば幸いです。

(担当/碇)

【本書より引用】

どのような記事に着目したかといえば、次の二点である。

 まず日本に言及、関わりがあるものを集めた。この時期、李承晩ライン、在日朝鮮人問題などの問題はよく知られて研究も行われていると判断し、あまり重視しなかった。今までにない材料が欲しいからである。

「悪辣な日本」として描かれている記事が主流ではあるが、日本統治時代に存在した、日本とは切っても切れない事柄を「我が物、我が事」として語っている例が多くある。

 このとき語られるストーリーは、発展の果実の「享受」であり、内地(日本)と歩みを同じくしていた「同期」である。いずれも「日帝の虐政の下、奴隷のように虐げられた人々」とはまったく別の姿である。同じ時代の別の出来事に対しては「日帝」への批判を叫ぶのと対照的である。

 こうしたテーマに注目し従来とは異なる角度から見ることによって、日本による朝鮮統治の時代を複合的、立体的にとらえることができると考えた。

 第二に、日本への言及は国内外の状況が影響する可能性があるので、南朝鮮・韓国がその当時どのような状況であったかを概観する。また日本との一対一関係だけでは見えないものがあると考え、国内外の共産主義者の動き、また米国、国民党、ソ連、中共などとの関係にも着目した。

 すると、五年足らずであるが、状況の変化をしっかりと感じることができた。作業の過程で予想外の記事が見つかった。応徴士としての女性挺身隊が帰国したときの記事(第一章第一節)、中国での朝鮮人慰安婦の記事(第三章第二節)など収穫もあった。

 作業のなかで感じ取った、時代の移り変わりを表現するにはどのように章立てをすればよいか。また、興味深い記事を効果的に提示するにはどのようにしたらよいかについて悩んだ。集めた記事をどのように分類するかは予想外に難しく、この作業だけでも多くの時間を要した。だが分類、整理で試行錯誤の繰り返しは発見と構築の過程であった。それは本書の構成に反映されている。

【本書の構成】

第一章 反日言説の氾濫

第二章 痕跡と葛藤

第三章 米国と中国の存在

第四章 共産主義者の存在

終章 「連続」と「断絶」、断絶の陰の見えないもの

著者紹介

荒木信子(あらき・のぶこ)
1963年生まれ。86年、横浜市立大学文理学部国際関係課程卒業。92年、筑波大学大学院地域研究研究科東アジアコース修了。修士論文のテーマは「韓国人の日本観」。訳書に『金大中 仮面の裏側』『「偉大なる将軍様」のつくり方』(以上草思社刊)など。その他『ある朝鮮総督府警察官僚の回想』『日本統治時代を肯定的に理解する』(以上草思社刊)の編集協力。
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