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虚子の「夏草」から「真菰」に替えるときの思考過程は?

本書は『音数で引く俳句歳時記・春』の続編で、立夏(5月6日)を迎えた初夏のシーズン向けに夏の季語を音数ごとにまとめ、解説した画期的歳時記です。これからの季節の句会、吟行あるいは一人での句づくりに大いに役立てていただきたい手引きです。本書の監修者である岸本尚毅さん、あるいは『プレバト』で有名な夏井いつきさんなどの実作者、指導者が常々言っていることの一つは季語の「音数」に着目することです。これは句づくりにおいて、俳人が心得ておくと役に立つテクニックです。これをあまり強調すると俳句本来の文学性・芸術性にもとるということであえて言わないできたことが、本書のような歳時記がなかった理由です。
さて本書の冒頭の「はじめに」で岸本尚毅氏は高浜虚子の昭和八年の句(「ホトトギス」昭和八年八月号掲載、六月の牛久沼への「武蔵野探勝会」での句)、
「舟に乗る人夏草に隠れけり」が
昭和三十一年の岩波文庫版『虚子句集』(自選集)では
「舟に乗る人や真菰に隠れ去る」
に推敲されている過程を推理しつつ、虚子の中でどういう思考が行われたかを書いています。それは「季語」「動詞の使い方」「調子」の三つであるとしながら、俳句の基本が実景をリアルに描くこと、五七五の音数による調子などが重要である。中でも第一に季語の習得の重要さを強調しています。
虚子は「夏草」という季語を「真菰」(まこも、牛久沼などの利根川流域の河川に生えている蘆のような草)という季語に替えています。岸本氏はこう書いています。「四季折々の風物である季語を詠みこむこともまた、俳句の魅力です。さらにいえば、俳句の魅力は叙景です。人事句の面白さを否定するつもりはありませんが、簡潔な言葉で情景を表現できたときの喜びは大きい。(略)推敲のポイントの第一は「夏草」という季語です。舟に乗るような場所ですから「夏草」では漠然としている。「夏草」より、水辺に生えているような草の名前を詠みこんだほうがよさそうです。(略)たとえば「舟に乗る人青蘆に隠れ去る」より「舟に乗る人や○○○に隠れ去る」のほうが、言葉がなめらかです。さて、この○○○にあてはまる季語がうまく見つかるでしょうか。夏の水辺に生える草で、丈が高く、しかも三音のもの。虚子はおそらく、最初「夏草」と詠んだものが、じつは「真菰」だったと思い定めて「夏草」を「真菰」に改めたのでしょう。
句作りの基本はあくまでも実景ですが、その実景をよりリアルなものにするための推敲
も句作りの楽しみです。虚子の「舟に乗る」の句のように、音数を変えながら、その情景
によりふさわしい季語に置き換える場合、『音数でひく俳句歳時記』が句作や推敲の助け
となります。この本が読者の皆さんに、季語との良き出会いをもたらすことを期待しています」。
情景をリアルに描くためにふさわしい季語は何か、そして全体の調子の中でその音数にはまる季語は何かと考えるときにこの本『音数で引く俳句歳時記』が役に立つでしょう。
(担当/木谷)