草思社

話題の本

このエントリーをはてなブックマークに追加

世界的権威が幻覚剤によるうつ病治療研究を解説

幻覚剤と精神医学の最前線
デヴィッド・ナット 著 鈴木ファストアーベント理恵 訳
幻覚剤と精神医学の最前線

◆もうすぐ、うつ病・PTSD・依存症を、幻覚剤で治す時代になる

 精神医学と神経科学の世界に今、革命の大波が押し寄せようとしています。うつ病、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の患者に対し、LSDやMDMA、マジックマッシュルームなどの幻覚剤投与を伴う治療を1~2回行うことで、大きな改善が見られるというエビデンスが蓄積しつつあるのです。さらには、強迫性障害、摂食障害や、アルコールや薬物などへの依存症、慢性疼痛に対しても、非常に強力な治療法になり得ると目されています。
 うつ病やPTSDなどいくつかの疾患の幻覚剤療法について、米国などでは臨床試験や承認申請が進んでおり、近いうちに実用化が見込まれています。それだけではありません。すでにオーストラリアでは、MDMAのPTSDへの処方と、サイロシビン(マジックマッシュルームの有効成分)のうつ病への処方が認められているのです。
 これは画期的なことです。うつ病の治療法は、ここ数十年、進歩がほとんどない状態が続いてきました。このような大きな効果がある治療法の登場は、長く待ち望まれていたのです。日本にも、既存の薬物や治療法が効かない患者が数万から数十万人いると考えられ、自殺などの危険にさらされている方も少なくありません。そのような患者や、その家族にとっても、希望の光となる大きな進展だと言えます。

◆精神薬理学の世界的権威が解説。幻覚剤の有害性は著しく誇張されてきた

 本書の著者は、英国精神薬理学会や英国神経学会などの会長職を歴任してきた、斯界の世界的権威あり、かつ、幻覚剤を用いたうつ病などの治療法研究で世界を牽引してきた研究者でもあります。本書は、その著者が、自らの研究も含め、幻覚剤療法研究の最前線について報告するものです。
 ところで、幻覚剤の摂取に、それによる利益を上回るリスクはないのでしょうか。幻覚剤も他の薬と同様に、用法を誤れば有害となり得ます。しかし、著者によれば、幻覚剤の有害性は実際よりも著しく誇張されて喧伝されていると言います。LSDやマジックマッシュルームなどの幻覚剤には、じつは依存性はありません。また、著者自身の研究でも、幻覚剤は、アルコールやたばこより有害性が低いと評価されています。では、有害性が低いなら、なぜ厳重に禁止されているのでしょうか。
LSDなど幻覚剤の禁止措置は、1960年代後半にアメリカをはじめとする国で始まりました。それは幻覚剤が有害だからではなく、幻覚剤が人々の考え方を変え、当時のベトナム反戦運動などのムーブメントの原動力になることを政府が恐れたからで、政治的意図によるものだと著者は指摘しています。
 世界的権威である著者による本書は、幻覚剤に対する先入観や誤解を解き、うつ病などの治療の未来に希望の光を与えるものとなるでしょう。

(担当/久保田)

著者紹介

デヴィッド・ナット(David Nutt)
精神科医。インペリアル・カレッジ・ロンドン付属ハマースミス病院医学部脳科学部門の神経精神薬理学教授。脳内での薬物の影響を研究するために、PETやfMRI、EEGやMEGといった最先端のイメージング技術を駆使。脳画像研究の成果を中心にこれまで500本を超えるオリジナル論文を発表しており、これは世界の研究者の上位0.1%に入る。欧州脳委員会、英国精神薬理学会、英国神経科学学会、欧州神経精神薬理学会の会長職など、科学および医学分野で数々の要職を歴任。一般視聴者向けの情報発信にも注力しており、ラジオおよびテレビに広く出演する他、ポッドキャスト番組も配信。2010年には英『タイムズ』紙の科学雑誌『エウレカ』が選ぶ英国でもっとも影響力ある科学者100人に、唯一の精神科医として選出された。2013年には、科学のために立ちあがった功績により、科学ジャーナル『ネイチャー』と慈善団体センス・アバウト・サイエンスの共同イニシアティブであるジョン・マドックス賞を受賞。2017年にはバース大学から名誉法学博士号を授与された。

訳者紹介

鈴木ファストアーベント理恵(すずき・ふぁすとあーべんと・りえ)
学習院大学法学部政治学科卒業、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)国際関係学修士課程修了。外資系企業、在ドイツ経済振興組織などでの勤務を経て、英日・独日翻訳に従事。訳書に『熟睡者』(サンマーク出版)、『Amazon創業者ジェフ・ベゾスのお金を生み出す伝え方』(文響社)などがある。
この本を購入する