草思社

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燃えない、壊れない、沈まない…建物を支える「構造」の秘密

世界を変えた建築構造の物語
ロマ・アグラワル 著 牧尾晴喜 訳

 みなさんが今そこにいる建物は、なぜ壊れないのでしょうか。
 あまりにも当たり前に利用している建物ですが、それはこれまでに考え出された、建物を壊さないための工夫の積み重ねによって、日々を平和に過ごせているのです。

 本書は、そんな建物を支える構造のアイデアが、どのようにして生み出されたのかを、世界的な建物の構造設計を担当する現役のエンジニアが分かりやすく語ったものです。

 まず建物にとっての脅威は、どんなものがあるでしょうか。
 日本に住んでいれば、まず自身が思い浮かぶかもしれません。台風といった自然の力のほかに、火災や建てる地盤が弱いといったことも脅威になりえます。建物が高くなるほど、自身の重さ=重力にあらがう力もより重要になります。
 これらのすべてに耐えられなければ、建物は人間を守ることはできません。
 構造とは、こういった力に対抗するために人間が生み出した知恵なのです。

 ここでひとつ、高層ビルはあんなに高いのに、どうやって地震や風の力に耐えられるのかを考えてみましょう。一つの考え方として、人間と同じように、強い「背骨」をつくって耐えるというアイデアがあります。
 働いているオフィスで、エレベーターや階段、トイレが「まとまっている」のがなぜか、考えたことがありますか?これは、それらをまとめて厚い壁で覆うことで、ビルのなかに「背骨」をつくっているからなのです。ですが、これはコンクリート以外の素材ではとても値段が高くなります。
 なので別の方法として、鉄骨でできているビルの場合には、亀の甲羅のような「外骨格」を用いることがあります。鉄をVやX字にした「ブレース」構造で建物の全体を覆うことで、外側をつよい殻で覆ってしまうというアイデアです。
 このような様々な工夫によって、建物は安全に建てられているのです。

 著者はこういった工夫を考えるスペシャリストであり、西ヨーロッパで最高を誇る「ザ・シャード」の構造ほか、さまざまなランドマーク的な建物を担当しています。彼女自身は、幼いころにインドでテロに巻き込まれた経験があり、建物が人間の命を守らなければならないという構造設計の理念は、概念的なものではなく、実体験に基づいています。そういった自身のエピソードも交えて語られるので、一人のエンジニアの奮闘記としても読みごたえがあります。

 本書を読み終えたころには、身の回りの建物を見る目がきっと変わっているはずです。

(担当/吉田)

目次

エンジニアの/としての物語 STORY
建物が支える力 FORCE
炎を防ぐ FIRE
土を建材にする CLAY
鉄を使いこなす METAL
石を生み出す ROCK
空を目指す SKY
地面を飼いならす EARTH
空洞を利用する HOLLOW
水を手に入れる PURE
衛生のために CLEAN
理想の存在 IDOL
最高の橋たち BRIDGE
夢のような構造を実現する DREAM

著者紹介

ロマ・アグラワル(ROMA AGRAWAL)
構造エンジニア。インド系イギリス系アメリカ人。オックスフォード大学で物理学の学士号を取得した後、インペリアル・カレッジ・ロンドンで構造工学の修士号を取得。西ヨーロッパ一の高さを誇るビル「ザ・シャード」やノーザンブリア大学歩道橋をはじめとして、数々の有名な建造物の構造設計に関わる。英国王立工学アカデミーのルーク賞を含む数々の国際的な賞を受賞している。

訳者紹介

牧尾晴喜(まきお・はるき)
株式会社フレーズクレーズ代表。建築やデザイン分野において、翻訳や記事制作を手がけている。1974年、大阪生まれ。メルボルン大学での客員研究員などを経て独立。一級建築士、博士(工学)。主な訳書・監訳書に、『幾何学パターンづくりのすべて』、『〈折り〉の設計─ファッション、建築、デザインのためのプリーツテクニック』、『箱の設計─自由自在に「箱」を生み出す基本原理と技術』(以上、ビー・エヌ・エヌ)、『世界の橋の秘密ヒストリア』、『あるノルウェーの大工の日記』(以上、エクスナレッジ)などがある。「AXIS(アクシス)」、「VOGUE JAPAN」、「GQ JAPAN」、「GA」といった雑誌で記事の翻訳・執筆も手がけている。
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