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その力は、どんな道路よりも、どんなテクノロジーよりも、どんな政治指導者よりも、私たちの文明を形づくってきた――。「川の流れ」によって規定されてきた人類の歩みを振り返る文明論!

川と人類の文明史
ローレンス・C・スミス 著 藤崎百合 訳

「はじめての雨が降ったときに、世界のあり方は永遠に変わった」。
 この印象的な一文ではじまる本書の原題は“Rivers of Power”で、文字どおり河川が私たちの暮らしに及ぼしてきた力(影響力)について、歴史をさかのぼって多面的に読み解く一冊となっています。著名な環境地理学者である著者は、古代文明の勃興と巨大河川との関係から現代のリバーフロント開発にいたるまで、河川が私たちの暮らしにどのような影響を与えてきたのか、そしてそれは今日どのような状況になっているのかについて、多彩なエピソードを交えながら描いています。
 人類にとって地上でもっとも重要な資源である「水」の供給源として河川はきわめて重要なわけですが、河川がはたす役割はそれにとどまりません。時に荒れ狂い氾濫する河川を制御するために人類の知識は深まり、それにともなって社会構造も変化し、やがて巨大な権力が生まれました。時には主要な交通網として、また場所によっては敵と味方を分かつ境界線としての役割もはたしてきましたし、古代から現代にいたるまで世界の主要な都市の成り立ちを規定しているのは「川の流れ」なのだということは、今日の世界の大都市もそのほとんどが大きな河川沿いにあるという事実からもわかると思います。
「橋」「船」「水車」「ダム」「運河」……といった人類に巨大な便益をもたらした発明もまた、大いなる河川の力を制御し、利用しようとする試みの中から生まれてきました。その意味で本書は、人類が創意工夫によってなしとげてきた輝かしい偉業をめぐる物語ともいえるのですが、一方で現在の世界が抱えるさまざまな問題(格差、環境汚染など)も各地の河川の状況に注目することではっきり見えてきます。世界の河川の在りようから人類の過去・現在・未来を読み解くユニークな文明論として、ぜひ目を通していただきたい一冊です。

(担当/碇)

目次

第1章 川と文明

ナイル川の氾濫を予測/治世者たちの権力の源泉/「川の間の土地」に生まれた最古の都市/チグリス・ユーフラテスの方舟/サラスヴァティー川の消滅/大禹の帰還/「水利社会」がもたらしたもの/知識、それはハピ神の乳房から始まった/「水の管理」を定めたハンムラビ法典/川の所有権をめぐる歴史/水車の力/新世界の発展と川の役割/ジョージ・ワシントンの着眼点/アメリカの運命を決めた土地取引

第2章 国境の川

移民の死因でもっとも多い「溺死」/青い境界線/川を国境にするメリット/国の大きさと形/「水戦争」の21世紀/マンデラはなぜ隣国を襲撃したのか/「ウォータータワー」がもたらす支配力/アメリカ司法長官ハーモンの過ち/越境河川を共同管理するためのルール/メコン川をめぐる緊張

第3章 戦争の話

イスラム国の支配流域/あの川を越えて/分断の大きな代償/「南軍のジブラルタル」攻防戦/中国の「屈辱の世紀」/金属の川/イギリス空軍のダム爆破計画/独ソ戦の趨勢を決めた川/闘牛士のマント/ベトナムでの「牛乳配達」/メコンデルタの戦略的価値

第4章 破壊と復興

ハリケーンの爪痕/大洪水の後に起こること/アメリカの政治地図を変えた洪水
抗日に利用された「中国の悲しみ」/黄河決壊から生まれた共産中国/アメリカ社会を変えた大洪水

第5章 巨大プロジェクト

「大エチオピア・ルネサンスダム(GERD)」計画の衝撃/大規模ダム建設の20世紀/橋が紡いできた歴史/人工の川/ロサンゼルスに水を引いたアイルランド人技師/水不足に苦しむ40億人/インドが挑む河川連結プロジェクト/大いなる取引

第6章 豚骨スープ

問題のある水/アメリカの環境保護、半世紀の曲折/中国の河長制/拡大するデッドゾーン/河川に流れ込むさまざまな医薬品/グリーンランドのリビエラ/ピーク・ウォーター

第7章 新たな挑戦

絶滅危惧種の回帰/ダム撤去のメリット/土砂への渇望/ダムの被害を軽減する方策/未来の水車/大きな中国の小さな水力発電/繊細な味わいの雷魚の煮込み/最先端のサケ/侵入種対策としての養殖業/河川利用におけるイノベーションの萌芽/危険な大都市の新たな洪水対策/暗い砂漠のハイウェイと、その先にあるホテル・カリフォルニア

第8章 川とビッグデータ

河川データの爆発的増加/川の目的と存在理由/「たゆまぬ努力」と「炎と氷」の対決/地球の記録者たち/3Dメガネをかけよう/ビッグデータと世界の水系の出会い/モデルの力

第9章 再発見される川

地球上で最高の釣りの穴場/加速する人類の「自然離れ」/自然と脳の関係/都市部の河川に関するトレンド/激変するニューヨークの河川沿岸/川を起点とする世界的な都市再生/多数派となった都市居住者/川が人類にもたらしたもの

著者紹介

ローレンス・C・スミス(Laurence C. Smith)
ブラウン大学のジョン・アトウォーター・アンド・ダイアナ・ネルソン環境学教授、および地球・環境・惑星科学教授。初の著書『2050年の世界地図』(邦訳はNHK出版より刊行)は、ウォルター・P・キスラー図書賞を受賞し、2012年の『ネイチャー』誌エディターズピックにも選ばれた。ダボスの世界経済フォーラムでの招待基調講演をはじめ、講演活動も頻繁に行なっている。

訳者紹介

藤崎百合(ふじさき・ゆり)
高知県生まれ。名古屋大学の理学系研究科にて博士課程単位取得退学。訳書に『砂と人類』『すごく科学的』『ハリウッド映画に学ぶ「死」の科学』(いずれも草思社)、『ウイルスVSヒト』(文響社、共訳)、『ディープラーニング革命』(ニュートンプレス)、『生体分子の統計力学入門』(共立出版、共訳)などがある。
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