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ウクライナ戦争でも感じた、自然界で弱者が生き延びるための知恵

この本は作2021年の夏休みに伊丹市昆虫館で著者が行った講演(オンライン)が好評だったので、それをもとにまとめられた本である。著者は50年近く昆虫写真家として努めてきたが、追いかけてきた得意のテーマの一つが「昆虫の擬態」である。1993年に『昆虫の擬態』という写真集をまとめて、その年の自然科学写真協会の年度賞を受賞して以来、日本でのこの分野の第一人者である。本書にはこれまで撮りためた写真から最新の成果まで、昆虫の不思議な生態「擬態」を考えるための格好の写真、典型的な写真、精細な動画(QRコード入り)がまとめられており、それを見ているだけでも楽しい本になっている。
「擬態」というのは昆虫だけに限らないが、草や花や樹木など周囲の何かにそっくりの真似をして身を隠す(カムフラージュ)、あるいは逆に突然目立つ格好をして目くらましをする(攻撃的擬態)などの生物の生態で、いずれも鳥や爬虫類などの捕食者から逃れ、自然界で生き延びるための各種の方法である。
いちばん有名なのは本書の表紙写真や序章に詳述しているオオコノハムシという木の葉っぱにそっくりの虫である。この写真を見ていると、何でそこまで葉っぱに似る必要があるのかと驚くほどの擬態である。また25ページのムラサキシャチホコという蛾が、枯れて丸まった葉っぱのように他の葉の上に止まっている写真は、まるでエッシャーのだまし絵のように見えて見事である(平面なのに立体に見える)。ここまでやると本当に捕食者を避けるためだけに進化したとも思えないような不思議感がある。
この本では、弱者が身を守るために「1章 よくあるものにまぎれる」「2章 目立たないようにする」「3章 強いヤツの真似をする」「4章 驚かせてチャンスをつかめ」「終章 死んだふりをする」という章立てになっていて、虫たちの涙ぐましい、それぞれの進化上の工夫を示している。
これは先のウクライナ戦争でも感じた自然界の摂理のようでもある。日本という国防上の弱者が生き延びるためには、目立たないように身を潜めて、アメリカという強者の威を借りて、最後は「死んだふり」までして生きのびよという教訓なのかもしれない。
(担当/木谷)