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プーチンはなぜ「ネオナチ」という言葉を多用するのか。

プーチンはウクライナを侵攻した当初、侵攻はウクライナを「非武装化するため」、「ネオナチ化を防ぐため」であると強弁していた。プーチンのこの相手への決めつけ、「ネオナチだ」「ファシズムだ」というのは一貫している。それはなぜなのか。
本書は読売新聞でベルリン特派員として10年近く、ドイツに暮らした著者によるウクライナ戦争の背景や原因を探ったノンフィクションである。著者は今回のウクライナ戦争を見るとき、特にドイツとロシア、そしてそこに挟まれた国々の歴史を見ることから始めている。この領域に狭義の意味でのウクライナ戦争の原因も影響も詰まっているということだ。
とくに第二次大戦の独ソ戦の影響は甚大で、死者は一説には5000万人とも言われているから、簡単にはその傷は癒えていない。ウクライナは第二次大戦では最初、ナチスに協力したが、最後はソビエト・ロシアと一緒に戦ってナチス・ドイツを倒した。だからロシアは東ヨーロッパの諸国に「ファシストのナチを一緒に戦って破った我々は団結しよう」というプロパガンダで西側に対抗しようとする。プーチンの「ネオナチ」という言葉は単純なレッテル張りを何回も言うプロパガンダの常道である。実際には「ネオナチ化」などは起こっていないのに、「反ロシア的なもの」「ロシアへの敵意」にはすべて「ネオナチ」というのである。
このドイツ、そしてポーランド、バルト三国、フィンランド、スウェーデンなどの各国の微妙な立ち位置と、恐露病ともいうべき歴史の重さを描く著者の筆には納得できる。
もう一つこの本で巧みに描かれているのは、ドイツの「平和ボケ」からの覚醒についてである。著者は戦闘地そのものには入っていないが、4月から5月ウクライナ西部の国境近くの街リヴィウやポーランド、ドイツに取材に入っている。ここで見たことは、侵略の恐ろしいばかりのインパクトである。そして侵略にびっくりしたものの、すぐに一致団結して対応に入れたことは各民族のDNAにロシアへの恐怖が組み込まれていることを示している。
さて慌てふためくドイツの大胆ともいえる政策転換は見事であったが、それまでリベラル志向の強い政権がエネルギー政策を中心に対ロシア融和策の甘い夢にふけっていた経緯があり、この問題は潜在的には変わっていない。最近になっては、ドイツは本当に覚醒したのかという危惧もいだく。もともとドイツ内にあるロシアとの親和性の要素は残っているし、またEUといっても一枚岩ではなくポーランドやハンガリーのような非リベラル志向の国家もあり、移民政策、環境問題、LGBT問題、ナショナリズムなどをめぐる対立もある。これらの民主国家内の分断は、民主主義の弱点でもあるが、それが自由のコストでもある。プーチンはあるインタビューで西洋のリベラル思想への批判を語っているが、それを受けて著者はこう書いている。
「プーチンには、西側世界、特に西欧社会をリベラリズムの文明と見て、その堕落に対抗するのがロシア文明という意識があるのだろう。西側世界が混乱に陥っているとの認識を持ち、侮ったことが、ウクライナに侵攻した一つの背景だろう」(296ページ)
プーチンは民主国家内にある分断に乗じて侵略を企てたと見ることもできる。この指摘に今の日本が学ぶべき点は多いだろう。
(担当/木谷)
