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米国政治を操り民主主義を脅かすものたち

ナチスの国際的イメージを操作する
本書は、アメリカ人ロビイストたちが「外国代理人(foreign agents)」すなわち外国勢力の代弁者として、いかにして国内政策に影響を及ぼし、民主主義の根幹を揺るがせてきたかを明らかにする重厚なノンフィクションである。
出発点として描かれるのは、20世紀初頭、パブリック・リレーションズ(PR)の先駆者とされるアイヴィー・リーの活動だ。リーは国内企業のイメージ捏造にとどまらず、ドイツIGファルベン社を通してゲッベルスらと面会、広報戦略を指南するなど、アメリカ世論をドイツに有利に誘導するための助言を与えた。こうした手法が、こんにち数多く暗躍する「外国代理人」の教科書になったと言っていい。
世界各国の独裁政権を顧客に抱える
海外からの脅威に対抗するべく、1938年には「外国代理人登録法」(FARA)が制定されたが、その後の数十年間、FARAの運用は極めて限定的で実効性を欠いた。その間にも、米国のロビイストたちは、冷戦下の反共政策やグローバル資本の論理を利用し、しばしば独裁者の支援に手を貸してきた。
代表例がポール・マナフォートである。彼は1980年代から各国の独裁政権を顧客に抱え、PRと政治戦略を武器にワシントンでの影響力を行使した。アンゴラ武装勢力の残忍な指導者サヴィンビを「自由の闘士」としてメディアに売り込んだのもその一例だ。
ドナルド・トランプの選挙対策本部長
そしてこのマナフォートこそが、2016年アメリカ大統領選でドナルド・トランプの選挙対策本部長を務めた人物である。本書がとりわけ警鐘を鳴らしているのは、こうした外国ロビイストたちが、トランプ政権の中枢にまで入り込み、アメリカの政策決定に実質的な影響を与えていたという事実である。実際、トランプ陣営の側近には、外国政府の利益を代弁しながらFARAに登録しなかった罪で起訴・有罪判決を受けた人物が複数存在する。国家安全保障補佐官だったマイケル・フリンもその一人であり、ロシアやトルコ政府との関係が問題視された。
ロシアによる大統領選挙介入
トランプはまた、ロシアによる選挙介入を公然と受け入れ、選挙戦で利益を得た最初のアメリカ大統領である。こうした行為は、単なる政治的スキャンダルではなく、FARAの理念である「対米影響力の透明化」を根底から覆すものであり、アメリカの民主主義を外から、そして内側からも侵食する動きとして本書は分析している。
米国憲法上の「請願の自由」という権利
本書が示すのは、ロビー活動が「請願の自由」という憲法上の権利として正当性を持つ一方で、外国勢力にとってはそれが都合の良い侵入口ともなり得るという現実である。そしていまや、有力法律事務所や元議員などの政府関係者までがロビイスト業界に積極的に参入し、外国代理人として、海外の独裁政権、専制政治の代弁者となり、シンクタンクや一流大学までが彼らの都合のいい道具となっている。
背後に「見えないロビイストたち」の存在
アメリカ民主主義が抱える構造的問題を、アイヴィー・リーからマナフォート、そしてドナルド・トランプへと続く人物史を通して、鮮やかな筆致で描き出す本書は、歴史の記述であると同時に、現代世界への警鐘でもある。
トランプ現象の本質、トランプという世界的災禍の本質を理解するうえで、彼を取り巻く外国ロビー活動の実態を知ることが不可欠である。トランプ政権の背後に暗躍する「見えないロビイストたち」の生態を明らかにする本書は、その意味でもいま必読の一冊である。
(担当/藤田)
本書目次
プロローグ よからぬビジネス
下院聴聞会のアイヴィー・リー/ナチスにアドバイスする米国人/残忍なゲリラ指導者がワシントンへ/外国代理人の脅威にさらされる米国
第I部 毒薬
第1章 悲惨な結末
請願の自由から生まれたロビー活動/政策立案者に揺さぶりをかける人々/アラスカ購入をめぐる画策と疑惑/グラント大統領に群がるロビイスト/コンゴをめぐるベルギー国王の野望
第2章 事実とは何か?
ラドローの虐殺とロックフェラー一族/過剰な自尊心と狂信、権威への敬愛/民主党予備選の広報マネジャー/一般大衆と企業を結び付ける存在/鉄道産業が生き延びるための透明性戦略/偏屈な財閥トップを慈善家に仕立てあげる/全米から企業がアイヴィー・リーに押し寄せる
第3章 広報の達人
欧州で出会ったムッソリーニのファシズム/独裁政権と米国の橋渡し役/新たな共産主義政権にビジネスチャンス/金庫室にあふれる皇帝コレクション/ソヴィエト承認のためのキャンペーン
第4章 破滅
ナチスを奉ずる産業帝国IGファルベン/ベルリンとニューヨークでキャンペーン活動/米国民にナチスを売り込む広報担当者/ファシズムと共産主義が全米に浸透/非米活動委員会からの厳しい追及/説明のつかない多額の報酬/紙面を飾る「毒薬アイヴィー」の悪行/PR業界の第一人者が抱える頭痛
第II部 怪物たち
第5章 秘密の握手
外国代理人登録法(FARA)の誕生/わずか数年で形骸化してしまったFARA/憲法に守られた「請願権」を悪用/適用除外の恩恵が弁護士ロビイストに/人材不足で司法省担当部署が機能せず/冷戦後にロビイストの存在感が急拡大
第6章 賢い男たち
マナフォート・シニア市長の汚職事件/野暮ったかった60年代のロビイスト/ジェファーソン候補を推すフランス政府の思惑/第三党・ウォーレス候補をスターリンが支援/冷戦期ソヴィエトが民主党候補にアプローチ/米国大統領選にクレムリンが積極関与/〝盗まれた〟高校生一日市長選挙
第7章 過剰こそが最善
共和党保守化の源流に著作『保守派の良心』/うわべの謙虚さとは裏腹のずる賢さ/共和党青年部でのし上がった二人/レーガン革命を支えた若い政治工作員/ロビー活動とコンサルティングを両輪に/先住アメリカ人カジノをめぐる画策/ロビー産業界のモンテ・クリスト伯
第8章 恥を感じるのは臆病者だ
『スパイ』誌の「たちの悪い会社ランキング」/世界各地の独裁者をつぎつぎと顧客に/暴君マルコスの事例を大統領選の試金石に/市民団体の厳しい監視の目/メディアを通じて被害者が「泥棒政治」を告発/ワシントンで最も恥知らずなロビイスト/クレジットカードで膨らんだ分厚い財布
第III部 革命
第9章 独裁政権にとって安全
外国代理人やロビー活動への無関心/新法「ロビー活動公開法」の落とし穴/イメージ操作で独裁政権を安泰に/ロビー企業経由で議員に渡る資金/泥棒政治家のためのターンテーブル/外国顧客になりすましたジャーナリストの実験
第10章 ウクライナ・カクテル
オリガルヒが頼った共和党の重鎮/議員退職後は専制国家を相手に商売/マナフォートがつくる「政治的なテレビ」/ウクライナの親欧米勢力を封じ込めるために/謀略をめぐらすウクライナの「石油男爵」/大統領失脚からの返り咲きを狙う/キャッチフレーズを連呼して人種差別を煽る/米軍の合同演習に不可解な抗議運動/米国に独裁者ヤヌコーヴィチを売り込む
第11章 血塗られた金
腐敗を象徴する独裁者の宮殿/目の前の政敵を牢獄に送り込んで排除/有力法律事務所がロビー業界に参入/外国政府に身売りする米国の政治家たち/報告書を改竄してメディアに拡散/引退政治家が集まる「ハプスブルク・グループ」/あきらめずに抗議を続けたウクライナ国民/娘たちが交わしたメールに父の悪行
第12章 儲けるためではなく
大富豪の高額寄付に隠された意図/クリントン財団への寄付が露骨に増減/世界中の独裁者が並ぶ寄付者リスト/米議員団のアゼルバイジャン視察を前に/国営ガス会社から米国NPOへの秘密の送金/米国議員倫理委員会の調査に下院から横槍/訴訟とスキャンダルに追いつめられたマナフォート
第IV部 反乱
第13章 黄金の壺
お粗末ででたらめなFARA申請書類/トランプ候補に接近するマナフォート/史上最も奇妙な大統領誕生の舞台裏/ロシアのハッカーがクリントン陣営のメールを暴露/クレムリンに渡った大統領選の内部情報/ロシアが演出するウクライナの「平和」/裏帳簿に並んだマナフォートの名
第14章 ブラックホール
裏の顔をもつアゼルバイジャン研究者/大学とシンクタンクがロビー活動の主役に/米国の一流大学に集まる外国政府からの寄付/オフショア口座を使った「特別な贈り物」/シンクタンクは情報開示が不要なので好都合/生み出されるのは研究ではなくプロパガンダ/腐敗と不正のメリーゴーランド
第15章 おまえは終わりだ
選挙対策本部長の自宅にFBI捜査/他国に支援された米国大統領選/中国政府と密かにつながるカジノ王/外国ロビイストを積極的に受け入れるトランプ/トランプのホテルに大金を落とす面々/大統領選へのロシア介入をようやく本格調査/マナフォートの有罪を決定づける証拠の山/トランプ側近や法律事務所をつぎつぎと起訴
第16章 共和制が危険にさらされている
追いつめられたトランプがマナフォートを恩赦/オリガルヒのための「影響工作」の数々/トランプ恩赦がワシントンに与えた大打撃/バイデン周辺もまたロビー活動の泥沼に/透明性はバイデン政権でむしろ後退/「外国代理人」登録を免れた有名弁護士/法解釈に阻まれた検察の敗北/マッキンゼーのグローバルな倫理的腐敗/資金潤沢なサウジ政権のロビー工作
第17章 ミスター・リーの広報ブック
ウクライナの惨状を語るとき欠かせない人物/外国ロビー業界の拡大を止められるのか/請願権を敵対国に売り渡す米国人たち/他国から押し寄せる影響力vs議会の戦い/民間も業界もこぞって独裁政権に協力/独裁者や専制君主のための「倫理基準」/ロビー活動と影響工作の深い闇
