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文明発展の基礎たる「砂」は、いま密かに姿を消し始めている
今年のオリンピックのメイン会場として注目される新国立競技場は、木をふんだんに利用したように見える外観が話題だが、その化粧の下にある実態は鉄と大量のコンクリートである。こういった巨大建造物はもちろん、住宅のような木造建築であってもその土台の基礎にはコンクリートが使われる。そのコンクリートの最も重要な原料こそが「砂」である。
それだけではない。いまこのテキストを読むのに使用している端末のシリコンップ、あるいは携帯電話の液晶ガラスもまた、砂からできている。さらに、エルギーの地政学的バランスを変えうる要素として注目されるシェールオイルもその採取のためには水だけでなく砂が不可欠である。つまり私たちの生活・文は、砂なくしては成り立たないのである。しかし、この普段その存在すら考えことのない砂は、ひそかに地球上から姿を消し始めている。
本書は、地上で最も重要な個体である砂と、人類の関わりを描いたノンフィクション巨編である。原題の『The World in a Grain』は、詩人ウィリアム・ブレイクの『無垢の予兆』の冒頭、「ひと粒の砂に世界を見る」に由来する。著者のヴィンス・バイザーは、技術・社会問題等に詳しいジャーナリストで、大学時代には中東研究を先行している。彼が調べた膨大な数的データを縦糸に、隠ぺい体質の強い砂企業や砂マフィアが潜む街への捨て身すれすれの取材を横糸に織りなされた本書から浮かびあがるのは、砂が文明を変革し、さらにより砂を利用しつづけるように進んできた、人間の飽くなき欲望の歴史である。
第一部では、コンクリート・ガラスをテーマに、近代から現代における建築・都市と、道路の発展の歴史が砂を通して語られる。今の私たちの生活基盤が、いかに砂に依存しているかがお分かりいただけるだろう。
続く第二部では、デジタル時代をハード面で支えるシリコンチップ、シェールイル採掘、さらには中国での止まない建設ラッシュと、ドバイにおける「養浜についても触れられている。現代生活の利便さ・経済の加速を支えているのもた砂なのである。
本書では、インドなどに台頭してきた砂マフィアの存在にも触れられている。の大きくても2ミリほどの小さな物体をめぐって、人命が奪われることさえあのだ。
砂をめぐる状況は、環境的な面、経済活動の面からみても、かなりシリアスな態に置かれているのだ。
「石川や 浜の真砂は 尽くるとも 世に盗人の 種は尽くまじ」という歌が日本にはあるが、本書を読むと、本当に砂泥棒の前に砂そのものが先に消えてしまいかねない実情がわかる。本書が、砂という「地球で最も重要な個体」の存在が注目されるきっかけになれば幸いである。
(担当/吉田)