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昔話でわかる、『鬼滅の刃』が大人気な理由!

なぜ炭治郎は鬼の死を悼むのか
――昔話で読み解く『鬼滅の刃』の謎
久保華誉 著

なぜ、『鬼滅の刃』はこれほどまでに人々の心をひきつけてやまないのでしょうか。
その答えは、「昔話」にあったのです。

本書では、『鬼滅の刃』が具体的に古今東西の伝承の物語、モチーフと共通しているのかを詳しく解説し、それによって『鬼滅の刃』にどのような意味が隠されていて、物語を豊かにしているのかを明らかにします。著者によれば、『鬼滅の刃』は「昔話のモチーフの宝庫なのである」そうです。

例として、そもそも なぜ竈門炭治郎と禰豆子だけが生き残ったのかを、説話から考察してみます。日本の物語では、古来より、男子が苦難を乗り越えるために「妹の力」を借りるという形が存在するのです。柳田國男に「妹の力」という論考があり、早くからその点に注目していたのですが、『古事記』、「さんせう太夫」などにその構造があり、古くからこの「妹の力に頼る兄」という物語は日本で受け継がれているものなのです。

また、 禰豆子 が体を小さくして箱に入るとても印象的な能力がありますが、これについては『うつほ物語』に絡めて考察されています。うつほ物語では、折口信夫が「神霊の宿る場所」と指摘したような、特別な能力を持つものが入る場所である空洞「うつほ」が杉の中にあり、そこで藤原仲忠とその母が過ごしています。杉でできた空洞というのは、古来より、とても特別な存在が入る場所として描かれてきたのです。アニメシリーズの3期に登場する、上弦の鬼である玉壺が、同じようにして壺に入ることと比較されているのもとても興味深い点です。

「桃太郎」「瓜子姫」『うつほ物語』『日本霊異記』「七つの子」『蝶の道行』『竹取物語』「おむすびころりん」「三枚のお札」「酒吞童子」『平家物語』のほか、西洋ではグリム童話やディズニーアニメなどについてもふれ、幅広い時代と地域について考察されています。

このように、長く受け継がれてきた物語の遺伝子が組み込まれることで、作品の本来の良さに輪をかけて、多くの人々の共感を得ているのだろうということが分かります。原作やこれからのアニメをより楽しみたい方や、伝承に興味のある方にぜひお手に取っていただければと思います。

◆『鬼滅の刃』の謎に迫る9つの「なぜ」

・なぜ炭治郎と禰豆子だけが生き残ったのか <妹の力>
・なぜ禰豆子は竹をくわえ箱に、玉壺は壺に、入るのか <うつぼ>
・なぜ善逸は雷に打たれたのか <雷の説話>
・なぜ伊之助は強いのか <始祖伝承とイノシシの説話>
・なぜ伝令役は鎹鴉なのか? <カラスの説話>
・なぜ胡蝶しのぶと栗花落カナヲは蝶をまとうのか <蝶の説話>
・なぜ宇髄天元の忍獣はネズミなのか <ネズミの説話>
・なぜ禰豆子は鬼になったのか <妹は鬼、鬼の特性>
・なぜ炭治郎は鬼の死を悼むのか <鬼の伝説と判官贔屓>

著者紹介

久保華誉(くぼ・かよ)
1975年、静岡県富士市生まれ。聖心女子大学卒業。國學院大學大学院修了、博士(文学)。野村純一教授に師事。国立国会図書館国際子ども図書館非常勤調査員(学芸員)、立教女学院短期大学非常勤講師などを勤めた。現在、東京女子大学非常勤講師。主著に『日本における外国昔話の受容と変容―和製グリムの世界』(三弥井書店、2009年)、児童書の『怪談オウマガドキ学園』(童心社)シリーズで昔話や説話の再話を分担執筆。日本昔話学会委員、日本口承文芸学会、日本民話の会、日本野鳥の会会員。物語に連なる古今東西の芸術に関心を持ち、ピアノはDIAPASONとPETROFを愛奏。
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