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世界を揺さぶる独裁国家群のネットワーク!

独裁国家連盟
アン・アプルボーム 著 神月謙一 訳
独裁国家連盟

 ある調査によると現在、世界の国家の約5割が「独裁主義国家」であり、世界人口のじつに7割以上がその体制下に置かれているという。それらのなかには厳しい経済制裁・封鎖を受けている国があるが、なぜ国家破綻しないのだろうか? じつはこうした独裁国家群は精巧かつ巧妙な「ネットワーク」を構築しているというのだ。
 プーチンのロシア、習近平の中国はじめ世界の独裁政権はイデオロギーで結びついていない。彼らは独裁国家ネットワークを通じ、資金洗浄を利用して外部からの制裁を無力化、高度な監視技術を共有し巧妙なプロパガンダを駆使して、人権や法の支配という普遍的価値を敵対視し国際社会から排除、独裁者が「何をしても報いを受けない」新たな世界秩序を構築しようとしている。
 危惧すべきは、対峙すべき民主主義世界内部の脆弱さだ。欧米の金融機関や弁護士、政治家たちも目先の利益に目がくらみ、不透明な資金を受け入れることで独裁体制ネットワークの形成に加担している。さらに脅威となるのは、現在のトランプ政権がアメリカを独裁主義世界に「同調」させつつあるという点だ。
 人々の自由がかつてない巧妙な手段で侵食されるなか、独裁国家群という名の強大なコングロマリットの脅威に民主主義はどう立ち向かうべきなのか?

(担当/藤田)

◎本書内容より

超国家ネットワーク
 現代の世界の独裁体制を動かしているのはそれぞれの独裁者単独ではなく、相互に結びついた精巧かつ巧妙なネットワークだ。
 このネットワークはいわゆる軍事政治的な同盟ではなく「産業クラスター」のように機能している。共有されるのはイデオロギーではない。それぞれの独裁政権が自らの利益をむさぼるためのものであり、政権を脅かす国民の声を奪い、政治の透明性をもとめる勢力を圧殺して権力を維持するためのものである。
 ベラルーシのルカシェンコ政権は、EUやOSCE(欧州安全保障協力機構)から厳しく批判され孤立しているが、中国企業数十社がベラルーシに投資し、工業団地の建設も進んでいる。ロシアは、ベラルーシの反政権的な記者に代わって自国のジャーナリストを派遣した。
 独裁者たちの共通の敵は、西側陣営、NATO、EU、および自由主義思想である。習近平政権は2013年、「九号文件」で立憲民主主義や普遍的価値などを「七つの危機」と明言し、「中国を敵対視する西側勢力」が国内の反体制派と結びついて「イデオロギー領域への浸透を続けている」と結論づけている。

マネーロンダリング(資金洗浄)と国際金融市場
 かつてクリントン米大統領は、中国のWTO加盟が自由化につながると確信していた。シュレーダー独首相は、中国はいずれ民主化されると賞賛していた。一方でプーチンはソ連崩壊を「地政学的な大失敗」と考えていた。
 だが、そのプーチン体制は、指導者が私腹を肥やすためだけに運営される「マフィア国家」となっている。ロシアのオリガルヒ(新興財閥)は、国家から与えられたり盗んだりした特権によって財を成した。
 プーチンは原材料の輸出許可証を発行し、その代金を友人らの会社へ送らせた。プーチンのロシアとドイツなどがフランクフルトで登記した不動産持株会社は国際的な麻薬マネーの洗浄に関与したという。
 ロシアの石油会社ユコスの社長ホドルコフスキーが逮捕され、会社は国営化された。ロシア最大の国営石油企業ロスネフチの新規株式公開は、いわば盗んだ資産に基づいていたが、それを主導していたのはロンドンの銀行だった。
 ウクライナのオリガルヒ、コロモイスキーは米中西部の製鉄所などを資金洗浄目的で購入している。その不動産購入には、キプロスや英領ヴァージン諸島を経由した資金が使われた。いま、世界のGDPの10%にのぼる資産がタックスヘイヴンに秘匿されていると言われる。2021年の「パンドラ文書」公開により、秘密資金のルートが米英本国を通っていることが判明した。

ベネズエラに群がる国々
 チャベス政権下の14年間で、ベネズエラは8000億ドルに近い石油収入を得た。国営石油会社PDVSAからは、数千億ドルが世界中の私的口座に送金された。複雑な為替レートの管理システムを利用した「為替操作産業」が最大の汚職源となった。
 ロシア企業(ロスネフチ等)は、欧米企業が撤退したあとのベネズエラ石油産業に進出した。中国は約300億ドルの融資をベネズエラに行い、見返りに監視技術や鎮圧装備を売った。キューバはベネズエラに兵士や治安専門家を派遣し、食糧配給を政治利用する術を教えた。トルコはベネズエラの不法な金取引を助け、制裁をくぐり抜けて食糧を提供した。イランはベネズエラにドローン工場建設を支援し、石油精製施設の修理技術者を派遣した。

ジンバブエとロシア、中国
 2027年からの国連非常任理事国ではドイツが排除され、ジンバブエが選出されている。このジンバブエは、かつて国連総会でロシアのクリミア併合を支持し、引き換えにプラチナ採掘権と戦闘機を交換するなど、ダイヤモンド産業でも投資合意を結んでいるのだ。独裁者ムナンガグワはウクライナ侵攻でもロシアへの連帯を公言した。
 また中国はジンバブエの独立闘争期より武器や訓練の供与をおこなっている。現在、ジンバブエにとって最大の投資国かつ重要な貿易相手は中国であり、中国はリチウムなどの鉱物資源開発に巨額の投資を行っている。それと引き換えに中国は通信インフラや監視システム、顔認識技術を輸出、ジンバブエの反政府分子の追跡や権力維持を技術面で支えている。

中国の監視システム、ロシアの偽情報戦略
 1989年の天安門事件後、中国は抵抗運動の動機となる「自由主義思想」の排除を開始した。「グレートファイアウォール」は、特定の語句(六月四日など)を遮断する。
シスコシステムズは数億ドルにのぼる機器を中国に販売したが、なかには禁止されたウェブサイトへのトラフィックを遮断する技術も含まれている。
 新疆ウイグル自治区では、住民の携帯に「思想ウイルス」を監視するナニーアプリが義務づけられた。中国の「社会信用システム」は、個人の社会的信用度を数値化しブラックリスト化する。中国の監視AI技術は「安全都市技術」としてパキスタンやセルビアなどに売られている。
 ロシアの国営放送は、欧州が「異性婚の子を掠ってゲイに与えている」等の偽情報を流した。プーチンはトランスジェンダーの権利を嘲笑し、自らを「白人のキリスト教国」の盟主とする。ウクライナ上空でのマレーシア航空機撃墜について、CIA犯行説などの矛盾する嘘を大量に流した。
 これが「虚偽の放水」戦術であり、人々に真実の把握を諦めさせ、ニヒリズムを植え付けることを目的としている。

「多極化」をふりかざす者たち
 中国は、普遍的人権を「西洋の脅し」と見なし、「発展の権利」を優先させるよう主張する。中国は「win-winの協力」や「互いに尊重し合う」という否定しようのない言葉を国連文書に入れようとしている。他国の干渉を拒絶するための文言である。
 ロシアは「多極化」をふりかざしているが、これは「欧米中心の世界秩序を終わらせる」ための公正な響きとして利用される。プーチンはウクライナ侵攻を「西洋という『悪魔』から世界を解放する闘い」と位置づけた。
 シリア内戦では、ロシアとイランが軍事介入して独裁者アサドを敗北から救った。シリア政府とロシアは、化学兵器使用を調査する化学兵器禁止機関を中傷した。
 シリアの民間防衛隊「ホワイトヘルメット」は、ロシアの宣伝工作により「テロの支援者」として中傷された。だがYouTubeで「WhiteHelmets」を検索すると上位の多くがRT(ニュース専門局、ロシア・トゥデイ)制作の動画であった。
 ロシアはアフリカ等の独裁者に、警護や暴力、プロパガンダをセットにした「政権維持パッケージ」を提供する。マリでは、ロシアのワグネルグループが裁判なしの処刑や略奪に関与しつつ軍事政権を支え、その見返りとしてロシアは3カ所の金鉱山の採掘権を獲得した。

トランプのアメリカ
 トランプ大統領は、アメリカの外交・内政を独裁主義世界の価値観に同調させはじめている。
 1980年代以降、トランプの不動産事業にとって匿名投資家は重要な資金源だった。トランプ名義のコンドミニアムの5分の1以上がペーパーカンパニーにより購入されていた。トランプ一族は、間接的な賄賂を可能にする仮想通貨ビジネス「WLFI」を立ち上げた。中国人起業家のジャスティン・サンはWLFIの顧問を務め、少なくとも7500万ドルを投資しているが、トランプはサンへの証券取引委員会による民事調査を中止させている。
 イーロン・マスク率いる「政府効率化省(DOGE)」には巨大な権限が与えられ、マスクは自身が所有するテスラを監督する道路交通安全局(NHTSA)の人員を削減した。マスクは大統領に認められただけで、国民からは何の負託も受けていない。
 トランプ政権下ではディール(取引主義)と帝国主義が結びついており、現代史では前例のない形の外交政策が形成されはじめている。アメリカがウクライナのゼレンスキー大統領に渡した覚書には、ウクライナの鉱物資源の半分以上を無期限にアメリカに引き渡すという提案が記されていたという。

独裁主義と闘う
 トランプのアメリカがまさにその象徴であるように、いまや民主主義国の中での分断が始まっている。民主主義諸国は独裁主義国家の攻勢にどう立ち向かうべきか。
 米欧は、不動産取引を完全に透明化し、実際の所有者の登録を義務づけるべきである。タックスヘイヴンでの資産管理や、それに関与する弁護士会計士を禁止することも可能だ。米国務省は偽情報が拡散される前に暴露する「プレバンキング」を開始した。ドイツやフランスの政府は、ロシアが運営する偽ニュースサイト網の実態を公表した。
 独裁主義者は、検閲の代わりに憤懣や憎悪を利用して自分たちのメッセージへの支持を広げている。これに対してSNSプラットフォームの利用者が、アルゴリズムに直接関与できるような法整備が必要である。米大統領補佐官は、中国への依存を減らす「デ・リスキング」を提唱している。
 独裁国家連盟の動きの根底に流れる国際関係における「弱肉強食」のリアリズム、それへの誘惑に対峙して、自由で開かれた社会を守る努力をいま強く求められている。

◎本書目次

序 章 独裁国家連盟―富と権力維持のための超国家ネットワーク
富と権力を維持しようとする意志/彼らの敵は民主主義世界であり自由主義思想である/民主主義諸国が戦っていたのは独裁国家連盟だった

第1章 結託する欲望―マネーロンダリングがつなぐ独裁国家と国際金融市場
ソ連から西欧へのガスパイプライン建設/経済交流は独裁主義国家に民主化を促すか/プーチンのクレプトクラシー形成に加担した国際金融の世界/独裁主義国家と国際金融コミュニティーの結びつき

第2章 転移するクレプトクラシー―資源と監視技術を交換し権力を維持する
クレプトクラシーを選択したチャベス/ロシア、中国、キューバ、トルコ、イランから支援を受けるベネズエラ/ジンバブエとロシア、中国との緊密な関係

第3章 物語を操る―中国の「監視システム輸出」とロシアの偽情報戦略
監視システムを輸出する中国/独裁国家の〝虚偽の放水〟/メディアのネットワークを使った〝物語のコントロール〟/ロシアと中国の情報洗浄(インフォメーション・ロンダリング)活動/独裁国家連盟が目指しているのは世界システムの改変

第4章 世界のOSを入れ替える―民主主義と人権の排除、多極化世界の構築
民主主義や人権という理念の排除/国境を越えた弾圧が〝法の支配〟を蝕む/独裁主義体制の発展が民主主義世界を破壊する

第5章 民主主義者を中傷する―活動家を「社会的に処刑」する
権威主義体制に対抗する非暴力戦術/「社会的に処刑」されたジンバブエの若き牧師/国家の敵を攻撃する〝蠅の軍団〟/民主主義衰退の危機

終 章 民主主義連合―独裁主義と闘うための新たな国際連帯
混ざり合う独裁主義世界と民主主義世界/超国家的クレプトクラシーの息の根を止める/情報戦に巻き込まれるな、その実態を曝け/ 切り離し(デカップル)、リスクを除去し(デリスク)、再構築(リビルド)する/連帯する民主主義者たち

著者紹介

アン・アプルボーム(Anne Applebaum)
『アトランティック』誌スタッフライター。ジョンズ・ホプキンズ大学SNFアゴラ研究所および高等国際関係大学院(SAIS)シニアフェロー。著書にピュリッツァー賞受賞作『グラーグ:ソ連集中収容所の歴史』をはじめ『権威主義の誘惑:民主政治の黄昏』『ウクライナ大飢饉:スターリンとホロドモール』『鉄のカーテン:東欧の壊滅1944-56』などがある。17年間にわたり『ワシントン・ポスト』のコラムニスト、編集委員を務めた。また『ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックス』『ニュー・リパブリック』『ウォール・ストリート・ジャーナル』『フォーリン・アフェアーズ』『フォーリン・ポリシー』などに寄稿している。

訳者紹介

神月謙一(かみづき・けんいち)
翻訳家。青森県生まれ。東京都立大学人文学部卒業。大学教員を17年間勤めたのち現職。元国立大学助教授。主な訳書に『戦争と交渉の経済学』、『レッド・ルーレット』(共に草思社)、『微生物・文明の終焉・淘汰』、『暇と退屈の心理学』(共にニュートンプレス)、『デジタル・エイプ』(クロスメディア・パブリッシング)、『格差のない未来は創れるか?』(ビジネス教育出版社)など。
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