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珍品から傑作まで一挙に上映する仮想映画館。

映画史にうごめく珍品・絶品をわしづかみにして一挙に上演する夢の仮想映画館。
現在ウエブ上に連載中の毎月二本立て映画紹介エッセイに加筆して単行本化した本。一昔前、街の映画館は一年中暦に合わせた二本立て興行を組んでいたものだが、ここでも仮想映画館として季節や話題にあった二本立て(邦画洋画二本立て)を考え、おすすめ作品を紹介してみようという映画ファン向けのエッセイ。どの作品を取り上げるかは無数の映画作品の中から著者愛着の作品、知られざる名作、忘れられた作品など、絶妙の選択により繰り出されるラインナップが楽しい。古今東西の映画の中から、面白い映画を見つけることでは当代一流の老練映画評論家が教えてくれる作品たちは今ネットで見ても楽しく味わい深いものばかり。
まずクリスマスには毎年これを見よ、と言ってフランク・キャプラ監督『素晴らしき哉、人生!』から始まる。人生に絶望したジェイムス・スチュアートがクリスマスの日に2級天使に救われるというヒューマンコメディだが、懐かしきハリウッドの定型にのっとったストーリーながら笑いと涙は今でも十分堪能できる。毎年年末は邦画としては「忠臣蔵」が各社競作だったが本書では溝口健二監督の忘れられた『元禄忠臣蔵 前編・後編』を紹介している。戦時中に作られた本格時代劇だが、再見してその良さがわかったなどと著者は書いている。
春は木下恵介監督の『春の夢』やハリウッド喜劇の『春の珍事』、夏は山本薩夫監督の『牡丹灯籠』とロシア映画の『妖婆死棺の呪い』などのホラーや怪奇もの。秋はロバート・マリガン監督『九月になれば』や小津安二郎監督の『浮草』…、名作と娯楽作品がごっちゃに推薦されているところが著者の評論の特徴である。本書はネット配信社会になって何でも見られる映画受容の時代にも、いまだ有効な映画ガイド書でもあり、読むと今すぐにでもその作品を見たくなるという著者の映画評論の特徴が横溢している。また各作品についてのエピソード、見識は映画の歴史についての著者の幅広い知識がもとになって語られているので説得力充分であり面白い。
ゴダールからアラン・ドロンまで、日々どんどん亡くなっていく映画黄金時代のスター、監督の追悼文や作品選定も往年の映画ファンたちには感慨深いだろう。木下恵介監督作品(『お嬢さん乾杯』『新釈四谷怪談』など)、高峰秀子作品(『あらくれ』『秀子の車掌さん』など)、若尾文子作品(『刺青』『女は二度生まれる』など)を多く取り上げているのが本書の特徴。86本紹介、周辺作品を入れると100本以上の案内。
(担当/木谷)
